PHASE-498【ド正面からの相手は苦手】

「続けよう」

 踵を返せば俺よりも早く姿勢を整えてからの瞬間移動。

 前方と後方にイグニースを展開。


「装備が鬱陶しいな」


「この装備ありきだから」


「無ければ弱者か」

 ――……言われても否定は出来ないね。

 ラノベなんかだと、最強武器で最強な存在になる主人公たちだけど。

 俺の場合はまだまだこれらを活かせる実力がない。

 というか、よく初っぱなから強い装備を容易く扱えるよね。

 装備も強くて、それに見合うようにステータスもカンストとか羨ましすぎだ。

 

 イグニースを前後に展開したおかげで、今回の攻撃からは難を逃れる。

 側面に壁を作っているから、攻撃をしかけてくる方向が限られてくるからな。

 壁を破壊して攻撃してくれてもいいんだけどね。

 そっちの方が味方と合流しやすい。


「せいや」

 試しに壁を斬ってみる。残火ならなんの苦も無く壁を斬ることが出来る。


「大した切れ味である」

 褒めてくれるけども……。


「ああ、くそ」

 壁が生き物のように、斬られた部分を補うようにして塞がる。

 人が潜れるくらいのサイズを一気に斬ることが出来ればいいんだろうが、大きく斬ってそこから脱出させてくれるほど……、


「ふん!」

 目の前の相手はあまくはない。

 強力な斬撃は防ぐだけで手一杯。反撃させてくれる隙なんてありゃしない。

 下手に回避してダメージを受けるより、火龍装備でしっかりと防ぎ続ける事が生存率を高めてくれるし、現状では最適解。


「面倒だな」

 決定打にならないのが不服なようだ。

 こっちとしては攻撃方法がなくて、困っているだけなんだけど。

 どうする。こんだけ強いのが魔法なんて使用してきたら、崖っぷちに立たされることになる……。


「そう言えば、魔法は使ってこないんだな」


「使わない。のではなく、使えないからな」

 サラッと言ってきたな。

 だからこそ、ブラフとして捉えて余計に警戒してしまう。

 でも、魔法を部下の野狐に使用させているところからして、本当に使えないのかもしれない。

 あれか? こいつ本当に、基礎ステータスを膂力に全振りしているのか?

 魔法やスキルは使えないけど、通常攻撃が火力特化の脳筋プレイヤーみたいなのか?

 となると嫌な相手だ。

 戦っている中でそうは思っていたが、それが真実となると更に嫌になる。


 俺はゲームだと基本、正面より回り込んで行動するのが得意なんだよね。

 逆に正面からゴリゴリに攻めてこられると、色々と布石があると考えて、動きが悪くなってやられる。

 でもここは現実。ゲームと違って、生き死にがかかっているから、動きが悪くなるなんて事だけは絶対に避けないと――、


「な!」


「これも防ぐとは良き魔法障壁だ」」

 やべえよ……。

 今までのレッドキャップスの瞬間移動を使用してからの攻撃は、速度に振り回されないように、一拍おいての攻撃だったけど、コイツのは加速をそのまま活かして、タイミングドンピシャで斬撃を行ってくるから、見えない動きからの高速剣に対して防御一辺倒になってしまう。

 今までの連中は、瞬間移動は使用出来ても、それを完璧には使いこなせていなかった。

 だが、眼前のデスベアラーはそれをマスターしている。

 さながら天剣と呼称される人物の技のようだ。


「ところで」


「なんだ?」

 息を整えたいから試しに問うてみたら、すんなりと対応してくれる。

 正々堂々とした武人タイプだ。


「おたくらレッドキャップスが使用する瞬間移動って、魔法なのか?」


「いいや。先ほども言っただろう。我は魔法は使用出来ない」

 おっと、ちゃんと答えてくれるか。


「これはピリアだ。縮地という」

 継いで出た単語に、笑みを湛えてしまった。

 やはりというべきか、まんまな名前だな。

 不殺の浪漫譚な漫画でも、天剣さんが使用してくるけども、本来は仙術のたぐいだったよな。

 土地を縮めて接近するって仙術だけど、こいつらのは前者の方だよな。

 

 ネイコスからなる魔法は使用出来なくても、ピリアは使える。

 レベルが87の時点で、俺が知らないようなピリアも使用しているんだろう。

 

 圧倒的な攻撃力はインクリーズの上位のものかもしれないし、ブーステッドクラスのピリアも併用していると考えるべきだな。

 ウィークポイントは魔法が使用出来ないって事だけど、それは俺も同じ……、ではないな――――。

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