PHASE-497【強制的に一騎討ちにもっていかれる】

「可動域は人間と同じだな」

 同じように造られたが故に、関節のある相手ならゲッコーさんは負けない。

 重量のある鉱物からなるスモールゴーレムは、今まで経験した事が無いとばかりに、床にうつ伏せにさせられたことに驚いている。


「なんだ? 何が起こったのだ!?」

 スリットから見える赤く輝く目と思われる部分が、忙しなく動く。

 赤い軌跡を残しつつ動き、自身の得物が床に突き刺さっているのを確認し、


「ええい!」

 苛立ちと共に暴れ出す。

 ジタバタとしたところでゲッコーさんの拘束はとけない。

 分厚い壁をも容易く破壊できるデスベアラーだけども、関節を極められれば、力で劣るはずのゲッコーさんを振りほどくことが出来ないでいた。


「動けば破壊する」


「ならば――――動くのみよ」


「うん? !? おっと!」

 無理矢理に動けば、デスベアラーの腕はゲッコーさんが固定している位置で破損。

 右腕部を失いながらも、ブレイクダンスを思わせる蹴撃で牽制するようにゲッコーさんを引き離し起き上がる。


「流石はゴーレムってことか」

 痛みとか皆無のようだ。

 こやって見れば、白銀の鎧兜を纏っているのではなく、こういう形から成り立っているゴーレムだというのが分かる。

 ゲッコーさんが投げ捨てた、欠損した右前腕部を残った左手で拾い上げれば、


「デミタス」


「は!」

 とんがり帽子を被った赤い瞳の犬――いや、狐の亜人がデスベアラーの横に突如として現れる。


「あれは野狐やこです」


「野狐?」

 ランシェルの説明では、妖狐の中で下位に位置する狐の亜人だそうだ。

 ここに来て日本風なのも出て来るとはね。今まではずっと欧州方面だったから新鮮だ。


「クリエイト」

 野狐が唱えれば、デスベアラーの腕がくっつく。

 ちゃんと動くのかを確認するためか、くっついた右腕を可動させて、次に指を動かしていた。

 なるほどね。ゴーレムだもんな。回復魔法じゃなくて、クリエイトによる修復か。

 確かに山賊たちが使用していたゴーレムも、クリエイトのスクロールを使用して復活させていたな。


「デミタス。手伝ってくれ」


「無論ですとも」

 あの野狐はどうやらレッドキャップスの中でも、デスベアラーの補佐的な立場のようだな。

 ウルクと同じ副官クラスかもしれない。

 随分と声が可愛らしいな。

 帷子の胸の部分が隆起している事から、雌の野狐なんだろう。


「鬱陶しいのを牽制しつつ、勇者を獲る」

 怖いことを俺たちにも聞こえるように述べるのは、余裕からですかね?

 ゲッコーさんにやられてたくせに。


「マッドバインド」

 野狐のデミタスが床に手を置けば、床に使用されている岩と土が混ざって出来た、ロープ状の物がいくつも出現し、俺だけでなく、皆にも襲いかかる。

 俺は蛇のように絡みつこうとするソレを懸命に回避し、なぎ払っていく。

 ゲッコーさんはナイフ。シャルナは黒石英のショートソード。ランシェルは手にしたナックルの部分からナイフが飛び出して、逆手の形で迎撃。

 ナックルの握り部分には、スライディングナイフの要領で刃が収納されていたようだ。

 コクリコはワンドと持ち前の体術でいなしていく。

 

 ベルは護衛軍と戦闘をしていることから、野狐は味方の妨げになると判断したのか、バインドによる阻害はなかった。

 上手い具合に俺たちは、陣形をバラバラに崩されてしまう。

 デスベアラーが言っていたように、俺を孤立させるのに成功したようだ。


「ウォール・オブ・マッド」

 マレンティの使用した魔法の土石バージョン。

 デミタスは防御に使用するのではなく、だめ押しとばかりに、俺とメンバーを遮る壁として使用してきた。


「やってくれるよ」


「そうだろう」

 ズンズンと、あえてこちらに聞こえるよう、わざとらしい大きな足音で正面から現れるデスベアラー。

 こりゃ本当に参ったぞ……。

 一対一は正直きつい。

 俺のピリアだと、力も速度も勝てない。


「さあ、一騎討ちだ」


「御免こうむる」


「いや、受けてもらう」


「く……」

 消えた瞬間、俺の目の前に現れながらの袈裟斬り。

 迫る刃とは逆方向に前回りで回避して、反転して背後を取っての残火による斬り上げ。

 デスベアラーも振り下ろした動作を活かして、前回りを使用して回避。俺よりも華麗な回避動作だった。

 特に兜にこしらえられた馬の尻尾のような飾りが流れるように動く様は、華麗な動作を際立たせている。

 

 前回りを実行した時は、殴撃や蹴撃が来ると警戒もしていたけど、それが無かったのは、残火を意識して追撃より回避を優先したと考えるべきだな。

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