PHASE-496【後衛の大切さ】
流石のゴーレム系も、これはダメージを受けているはず。
そして、決定打となるのは俺の残火だろう。
如何にゴーレムとして、硬い体で形成されていようとも、俺の残火に断てぬもの無しだ。
「いくぜ!」
強化ピリアを全て発動しての疾駆。
地を這う蛇のように下方から攻める。
斬り上げにより、体を両断するイメージを浮かべる。それを実行させるだけの場数も踏んでいるという自負もある。
強敵だ。可能な限り早く倒したい。
「よし!」
間合いまであと一歩というところで、下方より狙いを定めれば、
「――――ではない」
「ぅおわ!」
吹き飛ばされる。
白煙の中から現れる一撃。雷撃を帯びた蹴撃に襲われた。
ローキックが危うく顔面に見舞われるところだった。
籠手により致命傷は避けたけども、俺の体は木の葉のように軽々と宙を舞う。
体を捻りつつ、一回転してから着地。
軽業師のような動きが出来るのはラピッドのおかげ。
「なんで?」
白煙で視界も見えない状況だろう。
それとも赤い瞳は視界を遮られていても、見通すことが可能なのだろうか?
ビジョンでは壁の向こう側までは流石に見る事は出来ないけども。
「目ではないぞ」
俺の思考を読み取ったかのように、白煙の向こう側から落ち着き払った声が返ってくる。
「――音だ」
背後でゲッコーさんが答えを告げてくれる。渋い声のサンドイッチだ。
告げながらゲッコーさんは床を指さしていた。
――……!
「そうか。水か!」
カスケードにより床には水が流れている。
駆ければ当然パシャパシャと音がする。
その音を頼っての蹴撃。
水撃に加えて雷撃をくらっていても、冷静に俺たちの動きを耳で聞き取り、攻撃を行う。
訓練だけじゃなく、機転が利くだけの場数を踏んでいる。
研鑽に裏打ちされただけの実績を有している。
「魔王護衛軍だからといって、ただ
「侮ってはいないぞ」
だからこそ、こういう所で鎮護の任にも就いているわけだもんな。
こっちはダメージに繋がるような攻撃を二発もくらってるし。
くそ! 籠手で防いだってのに、ビリビリと腕から体内にまで衝撃が響いてくる。
手に指先まで震えて、残火の握りがあまくなる。
「ファーストエイド」
すかさずランシェルが回復。
後衛の回復役の存在は本当に大きい。
リオス付近の洞窟でのトロール戦を思い出す。
ベルとゲッコーさんがいれば、回復なんて必要ないくらいに圧倒的だけど、こういう手合いが現れれば、後衛のありがたみが心底理解できる。
「煩わしい回復役だ」
白煙の中から出てきたデスベアラー。
見た目からして、傷を負わせたと言えるダメージはない。
ただし、語気は少し荒くなっていることから、不快感はあるようだ。
苛立ちから隙が生まれればいいけども。
と、思っていた矢先に姿が消える。
赤い軌跡を残しつつ――、
「ランシェル備えろ」
言った途端に白銀の体がフランベルジュを大上段で構えて、ランシェルの後方に立つ。
ランシェルの回避行動は明らかに間に合わない。
その時、連射音と激しい金属音が立て続けにデスベアラーから響き渡る。
「なんだ!?」
連射、金属音と共に、驚きの声のデスベアラーは、攻撃を中断して頭部を守るように腕をクロスさせる。
「ゲッコーさん!」
なんと頼りになる伝説の兵士。
なんと頼りになるAA-12 。
デスベアラー周囲を見れば、ひしゃげた金属がいくつも転がっている。
大きさにして硬貨くらいのもの。
「スラッグ弾か」
散弾ではなく、大型動物を狩猟するのに使用される単発弾。
扉の蝶番なんかを破壊するのにも使用される強力な弾。
弾の形状が大きいから空気抵抗が激しくて、遠距離だと威力は大幅に低下するそうだけど、近距離なら――、
「ええい!」
流石に煩わしいと、ゲッコーさんに怒りを向けるように波打つ大剣で仕掛ける。
お得意の目にも留まらぬ速さで。
だが、そうだとしても――、
「ぬぅぅぅぅん!?」
奇天烈な驚きの声を上げるデスベアラー。
流石にそんな声は聞いたことがないと、他の護衛軍の動きがピタリと止まる。
衆目を集めるその場所では、デスベアラーが鉱物で出来た自慢の体を押さえこまれていた。
――――一連の動きはこうだった。
背後から振り下ろした剣は床に触れ、大きく床を抉るけども、目標であった存在には触れることが出来なかった。
振り下ろしと同じタイミングで、背後を取っていたはずのデスベアラーの背後をゲッコーさんが取り、デスベアラーの肘に手を当て、手首を握り、膝裏を軽く蹴って態勢を崩させてから、自身の体重を乗せたまま、デスベアラーの体をうつ伏せの状態で床に押しつけたのだ。
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