PHASE-185【やけ酒からの有頂天】

 ――……山賊退治からクレトス村までの道すがら、ベルの落ち込みっぷりは見てられなかった……。

 皆して声をかけづらい状況だったし、救出達成の喜びを語ることも無く、口少ない状況での村までの道のりだった……。


「おお! 無事でよかった」

 村に到着すれば、村の入り口では、皆がワックさんとゴロ太を出迎えていた。

 俺たちのテンションとは真逆である。

 


 

 救出に山賊も討伐できたことも含めて、夜、村ではちょっとした宴会が始まる。

 外で行われる宴会。

 篝火に囲まれ、簡易に作られた竹と笹からなるタープの下に、むしろが敷かれ、そこへと腰を下ろして歓待を受ける。


 ワックさんとゴロ太を救ってくれた感謝と、俺たちが火龍を救い出した勇者一行だと村全体に知れ渡れば、お近づきになりたいとばかりに、酒の入った瓶を手にして俺の前に列が出来る。


 困るんだよね。俺は未成年なんだから。


 この世界だと立派な成人なのかな? 日本は十五歳前後で成人だった時代もあるし。

 

 ――ちょっとだけ興味がある駄目な俺。

 背徳感が芽生える。

 ご厚意だし、差し出された酒瓶が彷徨っているのも申し訳ないし、いただいてみるかな。


「おいおい」


「ちょっとだけですよ」

 すでに酒を飲んでるゲッコーさんが半眼を向けてくるけども、飲んでみたいじゃない。


 俺の横ではベルがうつむいてずっと喋らないし。

 コクリコは居心地が悪いとばかりに、シャルナと別の場所で捏造武勇伝を語ってるし。

 なので、横からの圧を俺が一身で受けてるわけだ……。

 気を遣うこっちもストレスが溜まるんだよね。

 まったくあの子グマめ! ベルを傷つけやがって!

 怒りを肴にして、人生初のアルコールをグビグビと飲んでしまう。


「お!」

 なんだこれ! 美味しいじゃないか。

 シュワシュワしてる。

 ピーチ系の炭酸飲料みたいだ。

 常温なのが残念だが、それでも美味い。


 ミズーリを召喚すればジュースも飲めるが、普段は水とお茶が主な飲料だからな。

 

 喉の部分がじんわりと熱くなるのが酒って感じである。

 う~ん。進む進む。


「結構、飲むな」


「美味いですよ」


「まあな、俺としてはもっとスモーキーなのがいいが」

 ウイスキーとかかな?

 とか言いつつも、大きめのタンカードで並々と注いでもらって、それを飲み干す姿を見れば、スモーキーとか言ってるけども、アルコールなら何でもいいという風にしか見えませんがね。


「……にしても……だ」


「ええ……」


「凄いよな……」


「はい……」

 呆れてしまう。

 俺の隣のお通夜ムードの中佐には……。

 ゴクゴクと、こんなにも酒を飲めるのか。


 やけ酒じゃないか……。手酌でドンドンと酒瓶を空けていく様は凄いの一言。

 正座で、真っ直ぐと伸びた綺麗な姿勢からは想像がつかない酒量だ。

 飲み終われば頭だけがうつむく。

 普通なら、体ごと前のめりになる量だろうに……。

 

「はぁぁぁぁ……」

 と、ため息まじりだが、全くもって酔ってはいないご様子。

 とんだうわばみだ。

 

 酒を注ぐために並んだ人達も、これには引いている……。

 

 そこにトコトコと、マヨネーズ容器体型の子グマが近寄れば、


「お姉ちゃん。そんなに飲んだらダメだよ」

 酒が似合いそうな声が、子供のような語調でベルに話しかける。


 お前が原因なんだけどな!


「お姉ちゃん達は世界を救う人達なんだから、飲みすぎはダメだよ」


「あ、ああ」

 ぬいぐるみみたいなのに話しかけられれば、居住まいを正している。

 さっき以上に綺麗な姿勢。

 怖がられていたはずなのに、突如の急接近によって、ベルが緊張している。


 あの中佐があたふたしている!


 白髪になったり。乙女全開になったり。うわばみだったりと、こっちの対応が追っつかねえよ!


「これからも世界のためにがんばってね」


「ああ任せておけ! 私が魔王を討伐してやる!」

 いえ、俺が討伐したいんですけど……。


 炎の力が戻ったら、一人でも魔王を倒せそうだからな。

 愛玩生物に気に入られるために、まじで実行しそうだ。

 

 俺自身もやる気を出し始めてきたからさ、そこはせめて私と、複数を表す語を使用していただきたかった。


「最初はお姉ちゃんが怖かったんだけど、ボクの勘違いだったんだね。だって正義の味方だもんね」

 赤いマフラーを靡かせて正義を口に出す子グマ。


「わ、私は怖くないぞ。それに正義だ」

 いえ、怖いです。

 登場ゲーム内だと、主人公サイドからしたら悪です。

 つい横から口が出そうになってしまった。

 ここで口を開いていたら、俺の人生は終わっていただろう。


「さっきはボクに対して凄く興奮していて怖かったんだよね」


「う……」

 あんな興奮したベルは珍しいからな。

 俺は怖いというより、あそこまで情熱的にされて羨ましかったけど。


「改めて、助けてくれてありがとう」

 二頭身マヨネーズ容器体型がぺこりと典雅な一礼を行えば、その愛らしさに当てられたのが原因なのか、流石に酒が回ったのかは知らないが、クラクラしていらっしゃる。


「こちらこそ無事でいてくれてありがとう」

 矢庭にベルは立ち上がると、ゴロ太に負けないくらいの一礼。


 白いのと白いのが互いに頭を下げる光景。


「やっぱりボクの間違いだったよ。お姉ちゃんは優しい人だね」


「そう言ってもらえると光栄だ」

 うわ~……。見たこともない明るい笑顔ですよ。


「お姉ちゃんも温泉に入るなら、シャルナお姉ちゃんと同じようにボクが背中を洗ってあげるよ」


「は、はああ……。い、いいのか?」


「ボク、ゴシゴシするの得意なんだよ」


「よろしくお願いします!」

 普段のクールビューティーは何処へやら…………。

 興奮しすぎだ。


 まったく、羨ましい子グマだな。

 声だけだったら完全にアウトで犯罪だけどな!


 最初は拒んで、現在は落ち込むベルへと近づいて喜ばせる。


 純粋な心から来ているのは分かってはいるが、この子グマのゴロ太は――――、天然のジゴロだ!

 ここまでベルを翻弄するとは……。ゴロ太、おそろしい子!!


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