PHASE-131【隙を生じぬ二段構えってヤツですわ】

 ――――突きに薙ぎ。

 接近すれば、トライデントを持つ腕以外から放たれる拳打。

 

 便利だな。四本腕。

 

 ――――本当に便利だ。いい練習になる。

 

 多方向から迫る接近攻撃。

 人とは違う変則的な攻撃に、今までの固定観念がここでも打ち砕かれるね。

 流石はファンタジーだ。


「まだ笑うか!」

 そんなつもりはなかったんだけどな。

 強くなりたいって気持ちが芽生えてきた事に、笑んだだけだ。

 

 小、中学校の頃の自分に戻ったみたいだ。


「ちょこまかと!」

 変則的な拳と三叉を躱していたが――、


「あ」

 立ち回りがまだまだだった。

 ベルの炎によって溶けた岩の上に足を置きそうになり、それを避ける為にバランスを崩してします。

 ヒヤッとする。


「死ねい!」

 隙ありとばかりに、渾身の刺突を狙ってくるが、落ち着いて身を低くして、刀で足を狙う動きをすれば、舌打ちをしながらバックステップ。

 マレンティの好機を失わせる事には成功。

 

 危なかった。だけど、ヒヤッとしたって感情は、足元にであって、マレンティの一撃にではない。

 

 普通の槍に比べればリーチが短いのは幸いだ。

 槍のリーチなら、俺は足を狙った対処も出来なかったからな。

 

 だが、トライデントにも強味はある。

 通常の槍より穂先が枝分かれしている分、広い攻撃が出来るから、捌くのは難しい。

 回避からのカウンターもいいが、それよりも――、


「なんだ? 負けを認めるのか」

 納刀したからといって、そうは思ってほしくないな。


「先手をとるだけだ!」

 矛先が俺に狙いを定める前に、一歩踏み込んでの抜刀。


「なんと愚かな」

 容易く柄で受け止めれば、魚類の顔の口角が不気味に上がる。

 二本の右手で握ったトライデント。

 

 残った左手二本で俺を拘束しようと動く。

 そこを狙って――――、


「が!?」

 上がった口角が、痛みで歪む。

 攻撃を受け止めて余裕があったのか、拘束しようとしていた二本の左手は、弛緩していた。

 そこに逆手で持った鞘を思いっ切り叩き付ける。


「漫画じゃないんだ。俺みたいなのが片手の抜刀で仕留めるなんて、出来るわけが無い!」

 接近戦は魔法と比べれば、やはり経験が浅いようだ。

 刃にばかり目がいっていた。

 

 だからこそ、二段構えの鞘による一撃が決まり、左腕の一つがひしゃげて、あり得ない方向を向く。

 

 漫画じゃないんだ。とか、偉そうな口上だけども、まんま頬に十字傷のある主人公の技をパクってるよね。


「意表を突くよい攻撃だ」

 中佐からのお褒めのお言葉。

 出来る事なら、原作者の方を褒めてほしいが、ここは俺がありがたく受けておこう。

 

 苦痛で腕を押さえ込んで、動けなくなっているところを悪いけど、


「俺の行動一つ一つに責任が伴うんだ」

 なので、行使させてもらう。

 鞘から手を放し、両手で柄を持って、上段の構え。

 

 からの――――、渾身の一振り。


 伝わってくるのは、肉と、刃に抵抗してくる骨の感触。

 これだけはやはり慣れない……。銃に逃げたくなるのもこれが原因なんだよ。


「こんな、下等な種族に……」

 が、マレンティ、ティオタキの辞世の句。

 最後まで人間を見下したものだった。


「ふぅ」

 残心から、呼気を一つ漏らして、


「まだやるか? やるなら、俺よりおっかない人達が、本腰入れて殲滅を始めるぞ」

 マレンティの血と脂がついた切っ先をサハギン達に向ける。

 

 血を浴びると興奮状態になると言っていたが、同族で上位種の血を目にすれば、後退り。

 

 反転すれば、後退りの足は駈け足となって、全力疾走の逃げとなる。

 やはり、ぞんざいなあつかいをしていた指揮官と共に、この要塞で散るという義理はないようだ。


「やりますね」

 コーホー、コーホーという呼吸音と共に、お褒めの言葉。


「フッ」


「なんですか! 人が褒めてあげているのに、バカにした笑みを湛えて!」

 張り詰めた心を弛緩させてくれる潤いにはなったな――――。ダークサイドも。

 

 といっても、緩めすぎていいわけじゃないけども。

 なんたって、ここからが本番だろう。

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