PHASE-750【見越してるね】
――――麓を去り、橋を渡れば王土。
ここまでの追撃は一切無し。
あったのかもしれないが、麓で俺たちを待っていた征北騎士団や兵士たちの十重二十重な横隊は、追撃の者達を遮るものなんだろうという推測を口にすれば、皆してそうだろうと返してくれる――――。
「では、ここで」
糧秣廠から南。
瘴気が漂う場所――つまりは俺たちが移動してきた場所。
ミランドによる見送り。
「次は戦場となるだろうな」
「ええ……。残念な限りですが」
伯爵が手を伸ばす。
恐れ多いとしつつも、伯爵が手を下ろさないので恐る恐る手を握れば、ガッシリと両手で掴みブンブンと振る豪快な握手。
「戦場で相見えればお互い――ただの兵士。手は抜けませんよ」
ミランドが継げば、
「おうさ! 叩きつぶしてやる!」
と、剛気に返す伯爵。
「こういうのを豪放磊落と言うんだろうな」
誰にも聞こえない程度の独白。
やはり自分で口にする四字熟語じゃないね。
人が評価する四字熟語だぞ馬鹿息子。
――――。
「では私はこれで」
ギルドメンバーと王兵が守るライム渓谷の砦へと急ぎ戻り、増援が来るまでに出来るだけの備えをしますとマイヤは言い、俺たちに一礼してから移動で世話になった馬と、爵位持ちの為にミランドから提供された馬車を引き連れて砦へと帰って行く。
「さて」
急ぎ王都へと戻る為にJLTVを召喚。
馬鹿息子は漏らすまでの屈辱を受けたんだからな。
ああいった安い自尊心の塊のような男は、周囲の言葉なんか聞き入れずに直ぐさま軍を動かすだろう。
しかも周囲は傭兵で固めている。自分の言葉だけを聞き入れるような連中ばかりだ。
具申をする者達があまりにも少ないからね。間違いなく即行動するだろう。
大軍が押し寄せてくれば、如何に練度の高い者達であっても、五百程度では流石に抑えるのにも限界がある。
皆も同じ考えのようで、急いで戻ろうと車に乗り込み、行きよりも速度を上げて南へとひた走る。
――走って一時間もしないうちに濛々と上がる砂塵が見えてきた。
速度を落として警戒する中、先頭の馬甲を纏った騎馬が掲げる旗を見た後部座席の伯爵から、
「あれは獅子の旗。王直下の近衛ですな」
「ということは王様が!?」
いやいや、いくら何でも早すぎるだろう。
と思ったこともあったけど、今回の名代の人選からも考えれば、俺たちは先生の掌で躍らされているからな。
「素晴らしく素早い行動ですが、王はおりませんぞ」
旗で分かると伯爵。
眼前の騎兵が持つのは真紅の旗に二頭の獅子が王冠を前足で支えるようなデザイン。それは王を支える近衛を意味しているそうだ。
王旗は紫色の旗に、金糸にて刺繍された一頭の獅子のデザインだという。
降車すれば先頭の騎兵がこちらへと近づく。
その間、隊列はピタリと不動の状態。一糸乱れることのない動と静は、公爵の兵達が見ればそれだけで肝を冷やすことだろう。
「勇者様」
「早いね」
「荀彧様が――――」
騎兵の説明だと、俺たちが北へと向かった後に直ぐさま軍を編制し、王都から千の兵をライム渓谷の砦への派遣指示。
隘路となっている渓谷での防衛戦には、合わせて千五百の兵がいれば十分に守り切れるとの算段だそうで、平地にて力を発揮する馬甲を纏った騎馬も先頭部分だけ。
後は弓兵と歩兵が多くを占めていた。列の中央には輜重隊の馬車もある。
列を眺めつつ、歩兵の装備も拝見。
普通と装備が違ったから、目がどうしてもそこに向いてしまう。
担っているのはスコップ。見るだけで分かるのは、スコップの縁がよく研がれて磨かれていることだ。
あれは下手な手槍より刺突が強そうだし、下手な斧よりも木を切り倒せそうだ。
バトルスコップってやつかな。
彼らは歩兵というより工兵と見るべきだろう。
砦から隘路へと射かけるための練度の高い弓兵と、防御壁の修繕などに特化し、接近戦となればバトルスコップで相手を倒すという工兵による編制だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます