PHASE-293【雑念を植え付けても、強いもんは強い】

「雑念の混ざった振りだな」


「生意気な!」

 俺が上から目線で話すなんて、もしかして初めてじゃないだろうか。

 しかもこういう戦いの場で。

 優越感に囚われそうになるが、俺とて戦いを経験してきた身だ。ここで調子に乗ればいい結果は出せないのは分かっている。


「せい!」

 なので意識をしっかりと持って、目の前の美人に集中しての横薙ぎ。

 カンッっと、乾いた木の音が短く響き、ベルは一歩下がる。

 俺は体勢を崩すこともなく、横薙ぎを振り切ることが出来た。

 やはりベルは集中力をかいている。横薙ぎを受け凌いだだけだ。

 受けたと同時に捌き、こちらの体勢を崩してからのカウンターという動作はない。

 

 つくづく乙女だな。モフモフ達の声援を取られたショックが大きいようだ。


「何をにやついている!」

 おっと表情に出ちまうのが俺の悪癖。


「ほう!?」

 あっぶねえ……。

 悪癖が出ていても、意識は集中していてよかった。

 ベルの腕が伸びたような錯覚を思わせる、下からの斬り上げ。顎先まであと一センチと言ったところを通過していった。


「躱すか」


「おそろしいわ! 当たってたら当面は、流動食の生活になるところだったぞ!」

 腕が伸びるような錯覚もだが、一瞬で距離をつめてくる動きはやはり脅威だ。

 こういうのを縮地って言うんだろう。FPSをオンラインでやっている時に、回線の悪い人と出会った時のようだ。

 ラグい人は瞬間移動をするからな。それに似てる驚きが現実で体験できるのも凄いよな。


「もし流動食の生活になるのならば、私が責任を持って世話をしてやる」


「………………マジで!?」


「お前は……」

 おっと炯眼だったのが、半眼に変わってしまう呆れっぷり。

 にしても、雑な動きが混ざっているが、未だに手心を加えてくるな。

 斬り上げからの振り下ろしによる二連撃がくると思ったが、来なかった。

 おかげで俺は一息つけるから、喋ることも出来たわけだが。


「続けるぞ」

 一息つけてもゆとりは与えてくれない。

 こっちが姿勢を整えれば、即座に攻撃を開始する。

 今までは受けメインだったのに、攻めに転じてきた。

 受けとか攻めとか、薄い本の内容みたいだが、こういう事を考えられる俺はまだ余裕がある。


 連撃はしかけてこないが、一振り一振りが鋭いから、躱し、受けるだけで精神をすり減らされてしまう。


「いって~」


「よく防いだ」

 褒めてはくれるが、ゴロ太たちの声援を奪われているからか、鋭いだけでなく重い。

 怒りのこもった重さが含まれている。

 柄から伝わってくる衝撃がこのまま続けば、俺の手は痺れに襲われそうだ。

 

 ――――木刀と木剣による律動。木管楽器が、一定の間隔で音を響かせているようでもある。

 周囲のアバカンコールがそれを音頭にして、リズムを取っている。


「だい!」

 で、その中に鈍い声を加えていく俺……。

 油断すればローキック。

 ズンッと内部に響く痛みは、やはりタフネスでは緩和できない。

 ベルの攻撃は全てに置いて特別仕様……。


「よく動くじゃないか」

 普段だったら足を引きずりながらだろうが、外部のダメージはなんだかんだで緩和している。

 後は――、動く! という気概でカバー。追撃の一振りを何とか防げば、ここで攻めをやめてくれる。

 一息入れたいが、俺だって男の子。余裕の佇まいなんてさせてやるものかと、俺は動き続け、背後に回り込みんでからの、


「どっせい!」

 渾身の上段からの一撃。

 ――…………振り返るどころか、肩越しで見る事もない……。

 木剣を背に回して容易く止めてくる。

 泣けてくるほど、いかんともしがたい実力差だ。


「どぅ!?」

 くそ! コツコツと小突いてきやがる。

 折角メンタルを攻めたのに、結局ベルにペースを掌握されている状況。

 アバカンコールも少しずつだが小さくなってきている。


 隣通しで語り合う口の動きからして、【やっぱりまだ無理かな~】ってな事を言ってる感じだな。

 諦めムードは俺のテンションにも関わるから、ひたすらにコールをお願いしたいんですが……。

 固有結界の維持をお願いしたいんですが……。

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