PHASE-292【雑念に支配されたかな?】
――――ここで俺は悪い笑みを湛えつつ、思いついた一計を発動する。
そう、これは何でもありな剣術なんだよな。
別に剣技、投打、極めだけが攻撃手段ではない。
「ゴロ太に子コボルト達。俺も頑張るぞ。勇者である俺、頑張るから!」
「「「「うん♪」」」」
皆そろって可愛らしく頷く。
白い子グマと、子犬のぬいぐるみのような愛玩生物たちが、俺に期待の視線を送ってくる。
ゴロ太の赤いマフラーは正義の印。なので勇者である俺にはなついているし、子コボルト達は辛い境遇から救い出され、安息の場所を与えてくれた恩人の代表である俺に対して、好意を寄せてくれている。
愛玩生物たちの憧れの色に染まった瞳は、現在ベルから俺に傾注している。
こうなると面白くないのは中佐殿だ。
自分だけに送られていると思われた声援を俺が掻っ攫ったのだから。
普段は切れ長の目なのに、その目が驚きによって、こぼれ落ちそうなくらいに大きく見開かれていた。
「ゴロ太たちは私を応援してくれているのだ」
とまあ、珍しく独占欲を口にする。
「なに言ってんの中佐。ゴロ太たちの視線は俺に向けられているから。現に俺の声に応えてくれてるし」
まったく、ゴロ太たちの事になるとこれだ。
可愛いものを独占したいという可愛らしい欲張りさんが、俺の前にいる。
美人だけど可愛いとか、ギャップ萌えのスキルも所有しているのかな?
いずれは俺を独占してもらいたいが、今は攻めさせてもらう。
ゴロ太たちには悪いが、お前達の俺に向けてくる期待を利用させてもらうぞ。
正攻法からはかけ離れているが、俺は勇者を応援したい清らかな心に応えるのだ。
だから卑怯とは思わないでくれよベル。
「ゴロ太、皆、私を――――」
言わせねえよ。
「――この世界を守る勇者である俺は、この戦いも頑張るぞ。ヒーローは皆の応援で強くなるんだ。正義の心を持つ清らかな子供たちよ、俺に力を分けてくれ!」
自分を応援してくれと言いたかったんだろうが、遮ってやった。
体捌き、剣技に体術。全てにおいてベルが圧倒的だろうが、口は俺が早かったな。
「わかったよ!」
前足をギュッと胸元に当てて力を込めるように構える姿。
さながらヒーローショーを見ているちびっ子みたいだぜ。
俺の煽り方も正にそれを真似たんだけどね。
ヒーローショーの司会のお姉さんを模倣させてもらった。
小さな頃に何度も足を運んだ甲斐があったってもんだ。
「な……に……」
俺とゴロ太達の光景を目の当たりにしたベルは、鈍器で頭を殴られたかのようによろめく。
卑怯ではあるだろうが、いくら可愛いものが俺の方に声援を送ったからって、戦いの最中にそこまでのリアクションになるかね……。
どんだけ乙女なんだよ。
だが、戦いはメンタルが物を言う。
メンタルで勝ればいい勝負になるだろう。多分。
「ええい!」
恨めしそうに俺を見るのもいいが、メンタルを攻められて注意が散漫になるのは精進が足りない証拠――――、
「――なんだろう!」
下生えを滑空するように走り、インクリーズによる上段からの振り下ろし。
体ごとぶつかるような振り下ろしだ。
ラピッドの速度から生まれる運動エネルギーと、肉体強化によるこの一撃は相当な威力のはず!
ブォンと、ダイナミックな空気を斬る音。
「受けずに躱したか」
「何を勝ち気な笑みを見せている。捌くほどでもないと言うことだ」
よく言うぜ。ショックで対処出来なかったんだろう。
蹴りを見舞われた直後に放った俺の二太刀目を余裕の笑みを湛えながらバックステップで容易く回避した時とは別物だぞ。
カウンターも出来ずに躱すだけとはベルらしくない。
「中佐とはいえ、十代の乙女。やはり力はメンタルに左右されるな」
「生意気なことを言う!」
「だが事実だ。だからこそ炎が使えなくなっているんだからな」
「ぬう……」
正鵠、射たりだな。
クラーケンでムキになった結果が現在に至るわけだし。
ゲームは出来なかったが、最強の障害であるベルの攻略法は、そこなのかもしれないな。
「油断してるな!」
振り下ろしから続けざまに、下段からの斬り上げ。
カーンと払ってくるが、やはりカウンターはない。
「戦術や戦法ってのは、弱者が強者に立ち向かうために生まれたんだよな」
「貴様のは卑怯というのだ」
「わけの分からないことを言う。俺はただゴロ太たちに応援を頼んだら、純粋に応えてくれただけだろう。勇者として小さい子たちに愛される。嬉しい限りだな」
「世迷い言を! 幼い子供たちを惑わせるとは!」
いやいや……。俺は悪者ですかね……。
確かに利用はしたけども、あの子たちは純粋に俺を応援してくれているんだよ。 俺はそれに応えているだけ。
だからそんな風に雑な動きで俺を攻撃してはいけない。
先ほどまでの弛緩しての
後の先での余裕は何処へ?
まったくもってベルらしくないぞ。俺でも捕捉出来る剣筋とはな!
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