PHASE-291【付け入る隙を探せ】

「どうした? 動きが急に悪くなったな。怖じ気づいたか? 構える切っ先が震えているぞ」


「こりゃ武者震いだ!」

 言ってなんだが、やられ役の返しだよな……。

 

 どうやっても勝てない相手には正攻法でぶつかっても意味はない。

 だからこその奇策なんだろうが、現状、俺の出来の悪い頭では名案なんてものは浮かんでもこない。


「おりゃ!」

 結果、インクリーズとラピッドだよりの驀地。

 一足飛びで間合いまで迫る。

 構えは上段から防御に適した中段に変更。


「素直に正面とは潔いな」

 無形の位であるベル。あいつの手にする木剣の長さは、俺の木刀と同じ。

 だが間合いの中は結界そのもの。

 踏み込めばこちらがやられる。

 ――――コレが真剣での戦いならな。

 

 ベルは俺の力を見てやろうとしているから、どうしてもこちらの攻撃を受けてから対処するようだ。

 なのでそこに甘えて、結界の中に入り込み。


「胴!」

 気勢と共に中段からの短いモーションで胴を狙う。


「でん!?」


「よい踏み込みだが学習しろ。これで本日二度目だ。これはお前が研鑽してきた修練とは違う」

 木剣ばかり見るなって事ね……。

 分かってるんだけど、速いんだよな。ベルの動きが……。

 胴への打ち込みは失敗。

 振り切ることも出来ずに拳打をもらう……。

 後手なのに、蹴りに拳にと、捕捉するのも難しい速度だ……。

 

 とにかく剣道ではなく、拳打、蹴撃、投げに極め。何でもありの剣術だと想定しないとな。


「先ほどの蹴撃に耐えたのも大したものだったが、今のでも立っていられるか。拳打は強めに入れたつもりだったが」

 レバーブローに入れてくるところは流石、軍人だよ……。

 人体急所に的確に入れてくる……。

 おかげで息が乱れる。

 

 再び距離を取る。

 追撃が来ないのは、これがVery Easyだからだろう。完全に実力を見てもらっているだけだ。

 一つ大きく長い呼気をしてから――、ベルを見る。

 全てにおいて天壌の差。


 それに……、今のレバーブローは俺の戦意を削った……。

 タフネスを使用しているのに、なんでこうも痛いんだよ……。

 

 ――――二度攻撃を受けて分かったことは、タフネスは物理耐性強化っていっても、体の表面だけに効果があるようだ。

 内蔵とか内側を強化出来るわけではないようだ。


 温泉で覗きをした時に見舞われたのもそうだったが、ベルの攻撃にはパッシブで、衝撃貫通能力が付与されてるようなもの。

 武道を極めて、仙道の域に到達した存在の一撃だ。

 こうなると、手にする木剣でも、内部に直接衝撃を加えてきそうだな……。


「どうした? 武者震いの次は苦虫が口にでも入ったか?」

 文字通り、上から目線ですね! ブーツさえ脱いでくれれば、俺の方が身長は高いのに!

 まったく、その嘲笑。ドMなら喜ぶ視線ですよ!


「まだまだじゃい!」


「ならば来い」

 またも余裕からの無形の位。

 むしろそれをされると、どこから攻めればいいのか分からなくなって、気概が削がれるんだよな。

 どうやっても勝てない存在。

 一矢報いる方法が欲しい。

 

 周囲を見る。二度攻撃を受けてしまったが、野郎達の士気は下がっていない。

 叫ぶアバカンコールによる固有結界は健在だ。

 ホームなのは嬉しい。アウェイじゃないぶん精神的に楽になるし、その分、冷静にもなれる。


 相対する美人様は、俺とは逆にアウェイの洗礼を受けているはずなのに、全くもって気にしていない。

 強者には何も通用しないのだろうか……。


 どうにかやって中佐に隙が生じてくれないものか――、


 ――……ぬ!


「がんばれ~」


「あ! うむ、任せておけ!」

 愛らしいのに渋い声。

 白い毛並みの子グマ達もここに来たようだ。

 突如として送られる声援が嬉しくてたまらないようで、ベルは笑みを湛える。

 キリッとした時の笑みではない。

 ゴロ太とその周囲には、子コボルト達もいる。

 愛らしい存在の声援が嬉しくてたまらないご様子のベルの笑みは――、乙女のものだ。

 やはりモフモフに対しては、純粋な喜びが表面に出るね。


「だが――――」

 ニヤリと笑む俺は、心の中で継ぐ、

 ――――そこが付け入る隙になる。と――――。

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