PHASE-325【今更ですみませんね……。だって誰も口にしないじゃん!】

「版図が広がれば広がるだけ、町村での流通も可能とするように、即時対応を考えております」


「人々が無事ならいいですが……」

 瘴気で悲惨な状況になっている可能性があるからな……。


「その辺りは神頼みでしょう」

 天才が神頼みとは……。仕方ないとしか言いようがないけど。対応したくても俺たちにも限界があるからな。

 リオスのように正気に戻っても、その後の現実を突きつけられると、大きな傷を心に刻んでしまうだろう。

 そのケアもしつつ流通を実行していく。

 簡単に流通が広がると考えない方がいいな。しっかりと被害に遭った方々と向き合いながら、広げていくように指示を出していかないとな。


「今は純粋に、貨幣が流通し始めることを喜びましょう」


「ですね。大陸で流通が蘇るわけですし」

 難しく考えるより、今は前に進めたことを祝わうべきだな。


「主、正確には王都近辺で。なのです」


「ん?」

 どういう事なのだろうか? なぜ近辺と限定するのか。瘴気があるからか?

 疑問符も浮かぶし、首を傾げてしまう。

 この大陸の大半は魔王軍に追い込まれているとはいえ、王都に冒険者が集まってきたように、抵抗している領地だってあるだろうから、そこと連絡を取り合いつつ物流をと考えるべきだと思うんだけど。

 

 いくら瘴気によって道が分断されているとはいえ、俺たちのように瘴気に影響の出ない者たちで行動して、各地と連絡を取ることも可能だと思う。

 瘴気の影響を受けないコボルト達にも協力をと頭によぎったけど、亜人の中でも人と姿が違う存在は、相手にされない可能性があるから現実的じゃないか。


「正確に言うとですね。貨幣が流通していないのはこの王都近辺と、王の公領。王と行動を共にする貴族の私領くらいです」


「……うん?」

 どういうことなのだろう。

 ここでも疑問符だし、首を傾げてしまう。


 ――――話によると、ここよりはるか東。それこそタチアナの出自であるマール街よりも更に先。極東という俺にも馴染みのある言葉。

 極東である大陸の東は、辺境侯と呼ばれるエンドリュー候が統治している。

 

 侯爵であるエンドリュー候のハーカーソンス家は、バランドという名の土地を所領され、辺境防備官を長く務めていた由緒ある一族だそうだ。

 現当主のエンドリュー候は、王の信任もあつい人物。

 

 そこはまだ瘴気の脅威はおよんでいないということが確認されており、バランドでは人々は生活を安全に営んでいるとされている。


「なぜそこまで詳しいんですか?」


「王に聞きました」


「だったらなぜ辺境候は、王都に兵を送らなかったんですかね」


「送れなかったようです。どうしても瘴気が障害になるようで」

 瘴気があるのにバランドは安全なんだ。よく分からんな。


「まあ、そこは王より聞くとよいでしょう。主達には期待しています」

 てことは、俺たちの今度の目的地は、東の最果てである極東バランドって事か……。

 極東までの移動となると大変そうだな。


「そして北にはランスレン公が治めるミルドがあります」

 ――――ランスレン公爵。

 王様の叔父にあたる人物。前王の弟。

 王弟と呼ばれる存在。北の大地であるミルドの領主。

 ミルドとは瘴気を避けていけば何とか交流が出来るそうだ。

 カイル達と共に、流民が北側から王都に来たのも、そのルートを使ってのようだ。


「ここは指摘できますよね」


「なぜ公爵が派兵をしなかったか。ですね」

 頷いて返す。

 瘴気に支配されていないルートを通って兵を派遣してくれれば、王都は攻撃を受けたとしても、ここまでひどい状況にはならなかったと思うんだけど。


「ランスレン公は甥である、現王ラスター王とは不仲という話でして」

 ――……へ~……。

 転生して、オークに恐怖して、砦を破壊して、ホブを撃退して、海賊退治して、火龍も救ってetc――――.

 で、お金の流通も始まろうとしているってのに、俺はここに来て初めて王様の名前を知ったよ……。

 だって、皆、王様とか王ってしか言わないじゃんよ。

 と、なるとですよ。新たに気になることも芽生えるんですよ。


「王都って名前なんですっけ?」

 弱々しく上目で質問すれば、


「――――は?」

 おっと、知ってて当たり前とばかりの質問だったようで、天才である先生は、俺が何を言っているのかよく分かっていないといった表情になっております。


「コホン……」

 嘘くさく咳を一つ行ってから、


「……王都の名前って……なんでしょうか?」

 同じ質問を再び行う。


「……………………」

 忠誠心MAXでも、ここは半眼になる呆れっぷり。

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