PHASE-326【権力者とは】

 先生の俺に向けてくる半眼はなんともレアですけども、出来ればそんな顔で俺を見ないでいただきたい。

 だってさ、王様同様に、王都ってしか呼称しないじゃないですか。

 

 先生は一呼吸おいてから――、


「王都の名前はロン・ダリアスといいます。ちなみにこの一帯の地はダリアリアスです」

 名前を率先して覚えようとしなかった俺は確かに愚か者ですが、力なくやれやれと肩を竦めないでください。

 要塞名はトールハンマーで大賛成なので、俺に呆れないでいただきたい。心が痛いです……。


 残念な俺に対して、先生は居住まいを正してから大陸の情勢を教えてくれた。


 この大陸において、人間が統治する領地は封建制度によって成り立っているそうだ。

 偏差値が平均の俺でも封建制度くらいは分かるし、先ほどまでの会話の流れでも大陸が封建制なのも理解していた。


 公領を除いた私領を所領する事で、貴族達に統治下である私領の政治を任せるわけだな。


 王様であるラスター王が統治する公領は、大陸にて三割。

 次いで大貴族で前王弟の公爵が二割。

 他の大貴族が二割で、地方豪族が三割となっているそうだ。

 

 大貴族は公、侯、伯からの爵位からなり。貴族は子、男の爵位からなるそうだ。

 子爵、男爵は地方豪族の中に分類されていて、爵位を持たない有力者より発言力がある地位。

 

 一見して子、男からなる爵位持ちと有力者からなる豪族達の力が王様と同じ割合の領土であるから、力も同等と思ってしまうけど、王様に忠誠を誓う貴族達の力はそのまま王様の力となるので、潜在的権力はやはり王様が随一となるようだ。

 

 実際、この王都にて逃げずに留まった貴族達の半数は、本来は広大な私領を有する大貴族との事。

 

 我が心の友であるダンブル子爵は、地方豪族にカテゴライズされるわけだな。

 こういう貴族の力を合わせて、王様が大陸にて最高の権力を有することが出来ている。

 それを可能にするのも王様自身の徳なんだろう。

 

 最初あったころは、まったくもってそんなもんは無いと思っていたが、臣下である貴族達の忠誠に、住人が恨みを表立って出さないのも、今までの積み重ねた実績があってこそなんだろう。

 

 だが、最高の力を有していると言っても、問題もある。

 力を有していても、必ずしも付き従ってくれる連中ばかりではないということだ。

 力を持ってる貴族や諸将が、力を出し惜しみする現状。


 本来なら、人類に危機が訪れているこんな時こそ、一枚岩にならないといけないが、こんな状況でも助力をすることもなく、温存している連中がいるという事だ。

 面従腹背な連中となると、筆頭はランスレンとかいう公爵だな。

 先生の話だと、公爵であり叔父であるランスレンは、一応は王様の相談役のポジションであるらしい。

 

 特別待遇の役員みたいな存在だが、その公爵は王都が魔王軍に侵攻された時ですら兵を送らなかった。

 最低限の兵糧だけが送られてきたそうで、協力はなんとも消極的。

 不仲ってのもあるだろうが、人類存亡の時にそれを理由には出来ないよな。

 自身の私領の民を守ることを言い訳とされれば、王様も強くは出られなかった様子。

 それも理由としては弱すぎるが、王様が強く出られないのも仕方の無いことだろう。

 王様に次いで力を持っているのが公爵なんだから、疑いの目を向けて逆ギレでもされたら、警戒しないといけないのが、魔王軍以外にも現れるからな。

 

 相手もそれを分かっているから、強気に出ての応対だったんだろう。

 俺が王様のポジションなら私領を力づく召し上げて、そこの兵力を使うんだけど。

 そうなったらこちらサイドも大きく力を消耗するから、結局はジリ貧になるんだよな……。

 

 政治ってのは簡単じゃないってことだな。

 一方と蜜月になれば、それを面白くないと思う貴族達が敵対心を抱く事もあるだろうし。

 全体に気を遣わないと行けない王様の胃は頑丈だったんだろう。

 だが、今回は俺が思ったように、王様は力で私領を奪うべきだったと先生は語る。

 消耗したとしても、威厳を見せつければ、日和見の存在を動かすことは出来ただろうとの事だ。

 

 それすらもしなかった結果、魔王軍によって王とそれに与する大貴族を含む貴族達の力は大きく衰えた事になった。

 野心を抱いている者たちが覇権を狙うなら今なのだそうだ。


「馬鹿馬鹿しい。こんな時に!」

 ついつい声を荒げてしまえば、


「全くです!」

 と、先生も声が荒くなる。

 人の世界が終わるかもしれないという時に、覇権なんて考えを描こうとする事が愚かだ。そんな事はあり得ないことだし、あってもいけない。


「あり得ないことをするのが権力者なのです。自身の背後に危機が迫ろうとも、決して権力の椅子から離れられない。それが権力者が魅了されてしまう権力というものなのです。良くも悪くも」

 良くもは、権力者として責任を背負い、権力を行使しながらも民と共に行動する者。

 民がいるからこそ、権力者になれるというのを理解している者。

 

 悪くもは、全てを犠牲にしてでも自身の権力を守ろうとする者。

 民がいなくても、自分の力は揺るがないと勘違いしている者。


 簡単に分けると権力者はこの二つらしい。

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