PHASE-324【四種三色】
「いかがでしょう! 主!」
興奮しているな。
ぶっちゃけると、新鮮味の無い名前ではある。
正直、探せばゴロゴロと出て来る名前だからな。
まあ、先生にとっては横文字だから新鮮なんだろうな。三国時代に人だし。最近では横文字をスラスラと言いますけども。
――……お願いですから、鼻が触れそうな位置まで顔を近づけないでください。圧が凄いです。
それで喜ぶのは女性と一部の男だけです。
「……いいんじゃないでしょうか。トールハンマーで……。イゼルローンじゃなくて良かったと思っています」
座った状態だが、何とか背を反らせて距離を取る。
「いぜるろぉん? ですか?」
「ここは完全に流してくれて結構です」
「主がそう言うのでしたら」
完全に忘却の彼方へと送っていただきたい。
俺が要塞名を認可すれば、先生はそっちの方が嬉しいみたいだからこれ以上は踏み込んでは来ない。
にしても、トールハンマーか……。
俺の名前と認識されているこの異世界で、この名前はやはり恥ずかしい。どんだけ自分大好きなんだよと思われるのが嫌だな。
この辺りはちゃんと、先生が命名したというのを宣言してもらいたいね。
俺個人が命名したんじゃないと、全体に浸透させてもらいたい。
クスクスと笑われながら、後ろ指をさされるのだけはマジで勘弁。
しかし、俺の召喚した人達ってネーミングセンスが無いような気がする。
先生の場合は横文字が新鮮ってのもあるから仕方ないけど。
ギルド名を考えてる時もそうだった。ゲーム内の組織の名前をまんま使用したり。ゲーム内の帝国の名前に遊撃って付けたり……。
すげぇ有能なはずなのにな~。
「さて、要塞名も決まったことですし、いよいよですね主」
「なにがでしょう?」
お願いだから主語の抜ける会話はやめていただきたい。
俺は皆さんみたいに有能では無いので、その辺が抜けると分からないんです。
「範囲は狭いですが、王都を中心に、町村なども含めて試験的に貨幣による売買を始めたいと、提案を出しておきました」
俺が行動を起こさなくても、先生が王様たちと話し合って進めてくれるからありがたい。
王様たちもいよいよかと、乗り気であるそうだ。
貨幣が使用可能になるという事は、文明が以前のように戻るという事。
なので喜びも大きいようだ。
ようやくだ。ようやく物々交換から俺にも馴染みのある金銭による売買が始まる。
と、その前に――、
「この世界の貨幣ってどんな感じなんですかね?」
そもそも見たこともないよ。
見る余裕もなく戦いに突入したし、それからも見る事はなかったな。
「希少価値は、金、銀、銅と、我々が知るものと同じようです」
ここで、先生が掌サイズの布袋をテーブルに置く。
置いた拍子にじゃらりと音がするので、中身がなんなのかは直ぐに理解できた。
革紐をほどいて開かれる袋の中から、先生は一枚一枚を丁寧にテーブルの上に置いていく。
並べられたのは四種類、三色。
まず目にしたのは、光沢ある茶色の円形硬貨。つまりは銅貨。
銅貨は一枚から二枚で、パンが一つ購入できるらしい。
一枚の価値は日本円だと百円くらいの価値のようだ。
ここからは簡単。
銀貨は銅貨の十倍。
金貨が銀貨の十倍となる。
で、金貨には二種類ある。
水や汗の表現でも使われる雫型と、他の硬貨より一回り大きい円形の金貨。
雫型が一般で使用される金貨だそうで、こちらが銀貨の十倍の価値があるそうだ。
純金だと金は柔らかいこともあって、流通には向いていないからと、雫型金貨は銅なんかを混ぜて作られた硬貨だそうだ。
雫型金貨が一般使用においての最高額に位置する硬貨だ。
対して、円形の金貨は混じりっけのない金無垢で、一枚で雫型金貨の十倍の価値がある。
日本の十万円金貨と同じと考えればいいかもしれない。
円形金貨は、王侯貴族や大商人の間で流通する硬貨だそうで、一般での使用はほぼないとされている。
一般の最高硬貨が雫型金貨なわけだから、最高額をお釣りで使用するとかありえないからな。
日本で例えると、十万円使って、万単位のお釣りをもらうというおかしな状況になる。
円形金貨が一般の店で使用されようものなら、ぴったり一枚分の商品購入なら問題はないだろうが、お釣りが発生するとなれば、甚だ迷惑なことになるだろう。
一般的な店では歓迎されない硬貨だな。
王侯貴族や大商人の間でだけ流通すればいい硬貨だ。
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