PHASE-1148【以前にも会ったようで】

「有象無象を一々覚えるなんて無駄な能力と労力。王族の側仕えというのはよほど暇な役職のようね」


「ほざくな!」

 小馬鹿にしたような笑みを湛えられるとエルフさん達はお怒り。

 リンファさんの侮辱は許さないといった感じだった。


 嘲笑は浮かべながらも、ジリジリと俺たちから距離を取り始める偽者。

 

 その背後に――、


「逃がすわけがないだろう!」

 と、いの一番に駆けつけてくれた四人が回復を終えてここで合流。

 矢を放ち、魔法を唱えてから抜剣までの流れるような動きはお見事。

 まあ、それらを全て受け流す偽者も敵ながらお見事……。


 お見事ではあるが、余裕の表情が徐々に崩れてきているのも見て取れる。

 包囲から一気に距離を縮め、余裕の表情を完膚なきまでに崩してやろうとしたところで、


「だから、この状態で相手をするのは流石にきついのよね――アイアンゴーレム」

 偽者が下生えの大地を強く踏めば、それに合わせて地鳴りと揺れが発生。

 俺がゴロ丸を召喚する時と似たような事象。


「おお!!?」

 大地から生えてくるのは巨大な一本の腕。

 遅れてもう一本が現れ…………更に二本。

 合わせて四本の腕が出てくると、地面を押しつけるように手を当てて上半身を大地から出せば、その勢いで地面より一気に抜け出て全体を露わにする。

 

「おお……」

 同音だが前者と違って後者は驚きではなく脅威からのもの。


「なんという……」

 俺の横に立って呟くのは、常に隊伍の中央に立っていた第二陣のリーダー的な方。

 俺同様に眼前のゴーレムを脅威として見ている。

 ミスリルであるゴロ丸と比べれば眼前のは神々しさはないが――、


「デカくて黒いのは重々しくて迫力がある」

 でもって四本腕で六、七メートルはありそうな巨体からなるデザインは、見覚えがある。

 俺を挑発したいデザインのようだな。


「あれはアイアンゴーレムの中で黒鉄くろがねと呼ばれるクラスです」

 アイアンゴーレムの中で最高の硬度を誇るクラスとのこと。

 しっかりと説明しつつも俺に自己紹介をしてくれるリーダー的な方はタトーラスさん。

 防御壁にて警備を担当している十人長。

 そんなタトーラスさんに今までの経緯を簡単に説明している最中、


「さて――」


「あ、コラッ! 召喚したゴーレムに任せて自分は撤収か!」


「どうかしらね」

 ムカつく笑みだよ!

 敵である分リンの嘲笑よりもムカつくってもんだ。


「またんかい! 包囲されてんの忘れてんのか!」


「それは貴方たちの事でしょ。長々と会話をしてくれて有り難う」

 嘲笑を向けられる事にイラッとするも、周囲に目を向ければ無数の青い輝き。


「ここでミストウルフかよ!」

 向こうの増援もお出まし。


「勇者ならば追いかけてきなさい」

 ゴーレムのデザインといい、言い様といい。

 挑発してんのは見え見えだけども乗らないとな。

 ここで逃がしてしまえば元も子もない。

 何が何でも偽者は捕らえないといけない。


「タトーラスさん。皆さん。ここは任せていいでしょうか」


「存分にお暴れください」


「ここは我々が対処致します」

 と、タトーラスさんに続いて視察隊のエルフさんも続いてくれる。

 アイアンゴーレムに加えて狼の群れを相手にするとなると怖じ気づいても仕方ない状況だろうけど、そんな姿は一切見せることはない。

 任せてもらって構わないという強い意志が伝わってくる。

 意識の戻らないルーシャンナルさんはフル・ギルの支配下という事もあり、しっかりと拘束した状態で回復を見守ってくれるという。

 

 ルミナングスさんの部下は本当に――、


「しっかりとした方々ばかりだ」

 思慮深いし対応もいい。

 この方々になら任せても問題ない。

 出来る事ならゴロ丸を再度召喚したいけども、エリス達の守りも大事だからな。

 ルミナングスさんの部下さん達を信じよう。


 だからこそ俺はここから離れようとする偽者に傾注できるんだからな!


「捕まえられるかしら?」


「絶対に捕まえてやるさ!」


「ならもっと頑張らないと捕まえられないわよ」

 言うだけはある。

 ラピッド、ストレンクスンを使用してるってのに追いつくのに手間取っているからな。

 背中を眺める状態が続く。


「コイツ……」

 現状じゃどうのこうのと言っていたけども、現状でも大したもんだよ。

 多様な大地系魔法にアイアンゴーレム。百を超えるミストウルフを使役するという芸当。

 油断してたら手痛いカウンターを!?


「喰らうよね!」

 地面から伸びてくる鋭利な泥を残火で薙ぎ払い、


「マスリリース」

 と、お返しとばかりに燐光を纏った黄色い光斬を放ち足止めを狙ってみるも、泥の障壁によって防がれる。


 防げば肩越しにこちらを見やり、

 

「馬鹿であっても使用するピリアも増えているしみたいだし、一応、成長はしているのね」


「あん?」

 なんだその言い様は。まるで以前の俺を知っているようじゃないか。

 というか――俺を知ってるヤツって考えるべきか。

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