PHASE-470【人工生物?】
――――木々に囲まれた地帯を歩く俺たちの足は軽い。
蛇行しながら草原を歩いていた時に比べれば、土から隆起した木の根や下生えに足を取られそうなっても、真っ直ぐと進める事が精神的に楽で、疲れを感じさせない。
草原の若草よりも木々の下生えは深い色をしており、踏んで進めば青い芳香が鼻孔にまでしっかりと届く。
「木々が多く、相手に見つかりにくい利点もあるが、それは俺たちにとっても不利になることを忘れるなよ」
ステルスミッションの達人からの忠告。
警戒はしていたけど、言われることで気を引き締め、更に警戒を強めて足を進める。
そんな中で、スカウトとしても優秀な森の賢者であるシャルナの長い耳が、上下に小刻みに動く。
「いる」
一言。
シャルナがピタリと動きを止めれば、腕を横に伸ばして、全員に静止を求めてきた。
しっかりとした位置までは特定していないようで、耳を動かしながら警戒。
俺はまだ存在に気付かないが、ゲッコーさんとベルは気付いているようだ。
とくにゲッコーさんはシャルナよりも鋭敏なようで、視線は枝葉が重なり合って陽を遮り、影と影が折り重なって闇一色で染まる木々の――更にその先を見ている。
「ここから二時方向だ」
この世界に時計は存在しないので、言われても分からないとばかりに、この世界組は頭に疑問符を浮かべている。
俺が手で指し示せば、そっちを見やるシャルナ。
闇の中もしっかりと見る事の出来るエルフの目。
俺もビジョンを発動。
「どうだ? どんなタイプだ」
察知したゲッコーさんからの質問に対して、シャルナは見たことがないタイプと発言。
森の住人が見たことがないという。
新種なのだろうか? 俺の見立てでは、幻獣種に分類されそうな姿だった。
シャルナに変わって、俺が皆に姿形を説明。
大型の四足歩行。雄ライオンのような面貌の生き物だけども、尻尾が特徴的。
蠍のような尻尾が生えていて、明らかに自然の存在じゃないような気がする。
以前、王都付近の森で、ポーションの材料を集めていた時、風の谷付近にいるような羽の生えた百足もいたから、自然な存在じゃないと言ったところで、この世界では当たり前ってなるんだけどね。
とりあえず見た感じだと――、
「キマイラってやつかな」
神話なんかに出て来る生き物の中で、真っ先に浮かんだ名前を述べれば、ゲッコーさんは否定はしないけど、別の存在と推測したようだ。
「マンティコアです」
と、ランシェル。
「そうだな。そっちだ」
ランシェルの言に、ゲッコーさんは無言のまま、肯定するように頷いた。
発言を聞いて、俺もその名の存在を思い出し、ランシェルに一票。
俺の知っているファンタジーだと、人面犬みたいなタイプもいるけど、この世界のマンティコアは、ライオン然とした、鬣を靡かせた風格のある存在。
「シャルナは知らなかったみたいだな」
「あんな生き物は見たことないよ。新種かな?」
「シャルナ様たちが住まう、カルディア大陸から連れてこられたという話ですが」
「え~、あんなのいないよ」
ランシェルとのやり取りで、シャルナはそんな事はあり得ないと言う。
約二千年の時間を過ごしたシャルナでも、こんな種は見たことないと言い切った。
シャルナの発言が正しいなら、やはり自然界で生まれた存在ではないのかもしれない。
「じゃあ、人工的に作られたバイオ生物みたいなもんか」
「バイオ生物ってのが何なのかは分からないけど、トールの言うように、明らかにあれには人の手が入っていると思う」
様々な生物を見てきて、保護にも取り組む森の賢人が言うのだから、まず間違いないだろう。
ランシェルに質問すれば、マンティコアはカルディア大陸から数十頭ほど運ばれてきたそうだ。
「とても凶暴で危険な生物なので、避けるのが得策だと具申します」
「なるほど!」
ランシェルからの提案に返事をしたのはコクリコ。
なるほどのなるほどが、納得したというような神妙な声音じゃない。
明らかに……、
「……ね」
これは手柄になるというような快活な返事だったからな。
皆が虚をつかれた。
背を低くしてコクリコが疾駆。
障害になりそうな、自身の身長ほどある低木などを気にも留めずにまっしぐら。
アホまっしぐら。なのである。
「あの馬鹿は!」
大急ぎで後を追う俺たち。
が、時すでに遅く。
「ファイヤーボール」
元気いっぱいなノービスがしっかりと聞き取れた。
どうしてくれようか。あのまな板どうしてくれようか! と、思っていた矢先に――、
「ゴグァァァァァァッ!?」
苦しみの混じった咆哮が、対面する方向から上がる。
以外! コクリコのノービスがまさか通用するなんて!
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