PHASE-860【デュラハン】
「死ねぃ!」
「だから俺じゃない」
「ぐえ!」
躱して軽く顔を小突けば地面へと倒れ、顔を押さえて転がり回る……。
「どんだけ弱いんだよ……」
おっさんの無様さに後ろに立つランシェルからは溜息が漏れていた。
お気に入りのメイドの溜息に馬鹿息子はめっぽう恥ずかしいようだが、殴られた痛みの方が勝ったようで、痛みを紛らわせるように地面を転がる。
「リン。相手を呼んでやってくれ」
「お任せ」
カッとハイヒールで地面を蹴れば、リンの足元にて魔法陣が顕現し回転。
魔法陣が分裂するように更に顕現すれば、分裂した方がリンの前方に移動。
「さあ出てきなさい。元主のみっともない姿は見るに忍びないでしょうけど」
「もろあるふぃ?」
「主ってのはお前の事だよ」
「あるふぃ?」
「ライブ本数、日本史上最多記録のバンドじゃねえよ!」
「貴男は時折、本当に訳の分からない事を言うわね」
「まあそこは流してくれリン。というか中々に出てこないけど、本当に残念がってるって感じかな? 魔法陣の下で――」
魔法陣の方を向いて話しかけてみると、
「……いやはや、本当に情けない……。勇者殿、ご迷惑をおかけしております」
「いいさ。俺なんてあんたに大きな迷惑をかけたからね。あの時、一緒になって俺たちを無事に帰してくれた征北の方々にも申し訳ないことをしたし。それもあって個人的にも殴りたかったし、四男――征北騎士団団長のヨハンとの約束でもあったからな。俺はもう十分。後は任せるよ――ミランド」
「感謝いたします」
「ミランロォ!?」
お馬鹿な顔が更にお馬鹿に歪んでくれるじゃないか。
「お久しぶりですね」
リンの前にある魔法陣より現れ、挨拶をするミランド。
「なじぇおまふぇが……。首を確かに刎ねたらろう……」
馬鹿が言うようにしっかりと首と体が繋がった状態だ。
しかも血色もいい。アンデッドではなく生者として甦ったように思える。
「ああ。確かに……首は刎ねられました……」
――……生者として甦ったとついさっきまでは思っていたさ……。
ミランドが両手を顔側面に移動させなければね……。
「ひぃ!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」
ここにきて一番の悲鳴を馬鹿が上げ、
「「「「お……おお…………」」」」
と、闘技場内の光景に、オーディエンスからは驚きや動揺の声が上がる。
至近で見る俺とランシェルは光景に一歩後退り。
ミランドが頭を掴んで両手をぐっと上げれば――、ニチャァといった音がし、首が体から離れる。
「確かに……刎ねられましたよ……」
「あひゃぁぁぁぁぁぁ! 近づくな化け物ぉぉぉぉぉお!!」
恐怖が原因で痛みが吹っ飛んだのか、滑舌がよくなってるじゃないか。
完全に腰が砕けているけども、なんとか必死になってミランドから離れようと這って逃げる。
「リン。ミランドは――」
「デュラハンになってもらったわ。首を落とされた騎士といえばデュラハンでしょ」
何を楽しげに言っているのやら……。
リン同様に血色のいいアンデッドってだけでも首を傾げたくなるのに、血色がいいまま首を小脇に抱えるってのは恐怖だよ……。
まだ青ざめた肌で小脇に抱えている方がそれっぽくて怖くないだろうさ。
「さあ、そのご自慢の剣で挑んでください。私も全力で戦わせてもらいますので」
「来るな無礼者ぉ! 汚らわしいアンデッドとなってまで俺に挑もうとするとは、愚者の極だ」
「極でよいので――さあ、戦いを!」
「来るな! 誰ぞこの不浄の存在を消し去れ! 報酬は意のままだぞ」
「阿呆!」
「勇者! その暴言は今回は許す! さっさとこのアンデッドを倒せ」
「やだ」
「報酬は欲しくないのか!」
「阿呆!」
「貴様っ!」
「何か勘違いをしている。お前はここで負けるの。その時点でこの要塞内の物は俺たちの物。お前が言ってる報酬も俺たちの物なの。それをしっかりと理解しろ」
「それでも勇者か!」
「だからお前の中ではエセなんだろ。さっさと諦めて戦え。勝敗は目に見えていて賭にすらならないけどな。絶対にお前の負け~」
「エセ勇者! 盗人め!」
何とでも言え。お前は混乱するこの世界で更なる混乱をまき散らそうとした。
王の座を奪おうと考えていた奴に盗人って言われても、まったくもって精神に痛痒を感じない。
とにかく――、
「お前の負けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
もの凄く上から侮辱するように言ってやった。
ここだけを切り取って見れば、馬鹿の言うように俺は勇者には見えないだろうな。
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