PHASE-425【心が痛すぎる……】
「どうした? 相手をしたのが男だったからショックを受けているのか? 英雄ならば両方いけてもいいだろう。ランシェルの顔は好みなのだろう」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
このヴァンパイア! ゲッコーさん見たいににやつきながら言いやがって!
そもそも相手をしたのが男とか。まるで事後みたいな言い方だな。俺はまだしっかりと童貞だ。
夢の中くらい童貞捨ててもいいよね。なんて思っていたが、夢の中でも童貞だ!
パフパフは大いにしてもらったけど……。
男の能力で見せられたとはいえ、あの夢のは……凄かった……。あれは女としてカウントしてもいいはずだろう。
――…………くそっ駄目だ! どう取り繕うとしても、ランシェルちゃんが男って分かった時点で、無理なものは無理だ。
ベルが女でも、夢の中でそれを演じていたのが男であるランシェルちゃんなら無理。
男は無理……。
「大痛打のようだな……」
ヴァンパイアの嘲笑が消えて、些か呆れ口調だ。
大ダメージなのは当たり前だ。
こんなにも精神にダメージを被るとは思ってもみなかった。
「気をしっかり持てトール。確か日本のことわざにもあるだろう」
「なんすか?」
一拍おくゲッコーさんが再度、口を開けば、
「こんな可愛い子が女の子のはずがない。って」
「ねえよ! その髭全部、剃ってやろうか!」
伝説の兵士相手にマジギレする俺。
怒りにまかせて、四つん這いからなんとか立ち上がることが出来た。
くそ、コレがコトネさんとかなら俺もよかったんだろうが……。
俺が初対面でランシェルちゃんを気に入った事が、付け込まれる隙になったんだろうな。
「トール様……」
やめて……。そんな悲しげな目で俺を見ないで、ランシェルちゃん。
正直、ちゃんを付けるのもどうかと思ってきたよ。
だって、同年代の男にちゃんを付けるってどうよ……。
それもこれも、
「テメーが原因だゴラッ!」
「おっと、八つ当たりかね」
「八つ当たりじゃねえ! ジャスティス執行じゃコラッ!」
元はといえば、このヴァンパイアが俺を傀儡にしようなんて魂胆を持ったのが悪いんだ。
これは八つ当たりでもなければ、男にいいように夢を見せられて、それで喜んでいたとかっていうのから目を背けたいとかじゃ――決してない!
敵は倒す! ただそれだけの思いだ! だって俺は勇者だからね。
アンデッドぶっ飛ばすマンですから。
「そもそもヴァンパイアのくせに侯爵に入り込んでるのもむかつくんだよ!」
「訳が分からないよ」
「ヴァンパイアって言ったらドラキュラ伯爵じゃろうがい! 王都の禿げ上がった、鉄鞭使いの伯爵に憑依せんかい!」
「いや本当に、訳が分からないよ……」
「吸血鬼の常識を蔑ろにしたお前には、俺が鉄槌を下してやる」
俺に男の娘を差し向けるとは! 俺にはまだ受け入れるほどのキャパがねえんだよ!
こちとら童貞様だぞ!
「立てるかイリー!」
「う、うむ……」
俺の高ぶる声に当てられて、回復が終わったイリーが矢庭に立ち上がる。
「よし行くぞ!」
頷きが返ってくるのを目にして、俺は力強く床を踏みしだいて駆ける。
併走するイリーは滑るような歩法。
「コクリコ」
言えば、後方を追従するコクリコからファイヤーボールが飛ぶ。
もちろん通用はしないのは分かっている。
眼力だけでかき消すも、発生する爆炎で視界を奪い、俺とイリーが左右へと展開して攻める。
先手はイリーだった。
「
ガマに乗った忍者みたいな和名の魔法。
ロングソードに雷の魔法を宿したまま、床へと切っ先を突き刺せば、雷がロングソードより離れ、蛇行しながらゼノへと襲いかかる。
「他愛ない」
言うものの、コクリコのノービスよりは脅威と感じたのか、魔法障壁でそれを防ごうとする。
障壁に触れれば、電撃は地面より一本の柱へと変化し、雷撃が天井へと突き上がる。
防いではいるが、強い雷光に視界は狭くなっていると見て、
「オラッ!」
「ぬう!」
ガキンと激しい音。
二人が生み出してくれた隙を活かして、憤怒を具現化させたような炎を纏った残火による大上段からの一撃。
急ごしらえのアローンクリエイトで血の剣を作り出し、受け止めるゼノ。
纏った炎がブラッディ・ソードと触れれば、魔法障壁付与であろうとも、今度は容易く斬り落とす。
驚きの表情になりつつ、かろうじて後方に逃げるゼノ。
「逃げんなコラ!」
凄む俺。
俺の迫力も大したもんで、あの笑みばかり湛えていたゼノが驚きの表情だ。
「何というか――――。怒りであろうがなんであろうが、気概を奮い立たせる結果になったんだからな。そういうヤツが振るう一撃というのは重いし、脅威だろう?」
ゲッコーさんの発言に、長い犬歯を軋らせるゼノ。
お前がトールを奮い立たせたんだ。と、小馬鹿にした笑みを向けているから、余計に苛立ちを覚えた様子だ。
小馬鹿にした笑みはコイツの専売特許だったからな。
「まだ続けるぞ! お前を倒すまで続けるからな!」
俺の感情に左右されるように、残火の炎がゴウゴウと唸りを上げる。
イリーもライトニングエッジを再度唱え、俺と挟撃状態。
ドッペルゲンガーで俺を困惑させていたが、今では逆の立場だ。
もちろんそのピリアを使おうとしても、
「余計な事はさせません」
後方からのファイヤーボールによる嫌がらせ。
ようやく後衛のなんたるかを理解してくれたコクリコ。
ゼノの目が忙しく動き回るところに、俺はなんちゃって示現流の、上下反復の高速の太刀で畳み掛ける。
接近戦、魔法。両方に置いてのセンスはゼノが上だが、俺には残火がある。
コクリコとイリーが協力してくれる。
地力ではなく、得物によるステータス向上ってのは正直、情けなくもあるが、今は目の前のヴァンパイアに俺の太刀を見舞わないと気が済まない。
俺の傷心は、こいつを倒すことで癒やされる。と、勝手に思っている!
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