PHASE-426【ただひたすらに攻めるだけ】
「ええい! なめるなよ!」
何とか俺から距離を取ろうとするが、俺もラピッドによって追撃をしつこく繰り返し、ゼノに魔法を使わせないことに傾倒する。
俺にばかり集中していると、後方からイリーが雷撃音と共に攻め立てプレッシャーを与えてくれる。
流石は騎士団団長だ。動きは敏捷。
周囲の影の狼男たちは脅威にはならない。
それらを相手にしているのが、ベルとゲッコーさんとシャルナだからな。
スパルタではあるが、後顧の憂いを断ってくれているのには感謝だ。
窓の外を瞥見すれば、庭園の方では、イリーの連れてきた騎士団が必死になって住人の動きを止めている。
ベルやゲッコーンさん、シャルナと違ってやや押され気味。数の暴力による圧力を抑えるには数がたりない。徐々に後退している。突破されるのは時間の問題だろう。
問題にさせないためには、
「お前を倒す!」
「なめるな! バーストフレア」
何とかひり出した魔法を俺へと放つ。
「させん」
雷光を体に纏わせているような錯覚を見せるイリーが、バーストフレアよりも速く俺の前へと立ち、踵を返し、ライトニングエッジで両断。
続けざまに切っ先を床へと突き刺し、
「ありがとな」
礼を述べて、一直線に走る。
ラピッドだけでなく、各強化ピリアを発動し、速度を落とすことなくひたすらにゼノへと迫る。
ゼノだけを凝視。ドッペルゲンガーや、影への移動など、変則的な攻撃を意識することはせず、ひたすらに意識は目の前の相手にのみ向けていく。
「こいつ、急に!」
ゼノには、俺が捕食者のように見えたのか、わずかだけど瞳に恐れを含ませていた。
恐れに呑まれたことで、変則攻撃を使用する事も出来ず、狭まった選択肢から最適解として、正面からの迎撃を選択したようだ。
腰を落として、右手に剣を持ち、左拳は闇に染まる。
右手は、先ほどのブラッディ・ソードと違い、短く幅広のものを製作。
防御重視といった剣のデザイン。
「闇の念拳」
それは読んでいた。
先ほど同様に、盾を展開すれば、盾が闇へと呑み込まれるだけ。
なので、防御の型など捨て去る。
どこぞの聖帝の如く、制圧前進あるのみ!
「オラ! ブレイズ!!」
炎を纏った残火を腰を大きく捻っての横薙ぎで打ち込む。
気圧されながらもゼノは剣で防いでくる。
魔力障壁が付与された幅広の血の剣だが、障壁はブレイズにより打ち消され、単純な物理同士のぶつかり合いとなれば――――、
「なぜだ!」
剣の形状を変えたところで、俺の手にする残火に断てぬものなし――――だ!
鮮血で作られた剣が容易く断ち切られれば、ゼノは更に後退。
追撃する俺。
未だ左手は黒く染まっている。あれを食らわないように注意しての接近。
コイツの怖いところは、兎にも角にも魔法とピリアのへんてこな技だ。
発動させる隙を与えないようにするには、中級クラスの魔法は受ける気概。それ以上の鬱陶しいのは絶対に発動を封じる。
接近戦なら残火を手にする俺が有利だ。
「まとわりつくんじゃない!」
「お断りだ!」
お断りだし、お前も断つ!
俺に精神的なダメージを与えた張本人め! 絶対に許すことは出来ない。
後退する最中に右手で何かしらの魔法を発動しようとしていたので、
「食らえ!」
パン、パン――と、数発を57から発射すれば、苛立ちながら右手を前に出し、障壁によって銃弾を防ぐ。
防ぐことで魔法発動を阻止する。そして距離を詰めて残火を上段から――――、
「調子に乗るなよ勇者! ブーステッド!」
――コイツ、急に動きが!?
今までとは明らかに違う機動力。縮地を思わせる動きで俺の側面へと一瞬で回り込んでくれば。
「食らうがいい」
左拳が空間を斬るようなシャープな音を発しながら打ち込まれ、俺はゼノから急速に離れていく。
「――ぐは!?」
壁に叩き付けられたのか?
いきなりの一撃に何が起こったのか理解できず、若干の混乱に見舞われてしまう。
――!? はたと我にかえり、殴られた脇腹を見る。
闇の念拳による一撃を食らってしまった。闇が……、かき消されていく。
「無事ですか」
「勇者殿」
コクリコとイリーが即座に俺の前へと立ってくれた。
問題ないと俺は恐る恐る立ち上がる。
衝撃で頭がわずかに揺れているけど、大丈夫のようだ。
相対する方向から舌打ちが届く。
「まさか闇の念拳を無効化する効果があるとは……」
火龍の鎧に感謝だ。状態異常回避の能力が、闇の念拳をただの拳の一撃に変えてくれた。
だけどなんだ、さっきのゼノの動きと強烈な一撃は。
明らかに今までのものとは別物だった。
「ブーステッド。本人が有する肉体能力の限界突破」
ピリアの解説に定評のあるコクリコからの説明。
自己強化系上級のピリア。
移動速度と肉体強化を同時に発動することが出来る。
ラピッドとインクリーズを同時に使用したような状態。且つ、それらよりも高い能力を得られるピリア。
でも――、
「諸刃の剣だな」
俺たちを引きはがすことは出来たようだけど、肩で息をしている。
わずかな使用だったが、爆発的な能力解放は、体にも大きな負担を強いるようだ。
しかし、ブーステッド。一撃必殺へと繋げられる能力向上は魅力だ。
殴られた残滓は、まだ脇腹に感覚として留まっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます