PHASE-554【意外とコンプレックス持ち】

「とりあえず一日は休息に当てるけど、次のために色々と準備はしておくように。なんでも俺の召喚に頼ろうとするなよ。特にコクリコ、干し肉とかの携行食は買うべきだけど、旅に関係ないのは買うなよ」


「分かってますよ。ただでさえこの地や魔大陸に滞在して、ギルドからの報酬とか出ないんですから」

 その通りだな。

 俺たちは貯蓄があるから問題ないけど、コクリコは散財が凄いからな。


「侯爵に頼んでくださいよ。魔王を救い出したんですから、一生涯豪遊できるだけのお金がもらえてもいいと思うんですが」

 確かに報酬が出るとなると、そのくらいの働きはしただろう。

 だが、例えであっても豪遊なんて単語を使用して、報酬を欲する発言はいただけない。

 俺は、理解を示しても良いけども、理解を示さないだろう人物がいるから、俺はコクリコの話には乗らない。


「欲にまみれるのはよくないな」

 と、はたして正に、ベルが怒るからな。

 直ぐにコクリコの口が一文字を書く。

 でも実際、出てもいいとは思う。

 報酬ありきでやるってのもクエストの醍醐味だからな。

 会頭として、その辺は休日を利用してから、侯爵に話を通しておこう。

 身銭を切って買い物をしなくても、北の地で活躍するアイテムを色々と揃えてくれるように、侯爵に援助の交渉をしよう。

 

 揃う物が揃えば、後は新たな地に向かうだけだ。

 といっても、バランド地方内だけど。

 魔大陸であるレティアラ大陸からしたら近場も近場だ。


 俺たちはまた留守にするから、S級さん達には引き続きドヌクトスを中心としたバランド地方を守ってもらおう。

 欲を言えば全体を守って欲しいけど、百人しかいないからね。

 いくらチートさん達でも、同時多発に魔王軍が動きを見せたらカバーは難しくなるから、対応は後手後手になってしまう。

 新たにリズベッド達がこの地に加わった事を考えれば、ドヌクトスとその近辺だけに集中してもらった方がいい。

 この地は王都と違って精兵五万からなる地でもある。

 各町村は兵と冒険者で十分な守りが可能だ。かつかつの王都勢からすると羨ましいところ。

 なので侯爵に姫。前魔王であるリズベッドが住まうドヌクトス近辺が優先度第一位だ。

 ガルム氏や翁たち精鋭と共闘すれば、大抵の驚異は退けてくれるはずだ。

 


 後は――――、


 ――…………、


 ――……!?


「あれ!? そう言えば地龍は!?」

 別邸から本邸に向かう時も気にはしてたけども、すっかりと忘れていたぞ。


「うん? 確かにまったく姿を見ないな?」


「もしかして俺たちに何も言わずに去ったとか?」


「いや、それはないだろう。生真面目な方のようだし」

 ベルの言は正しい。

 挨拶もなしに去るとは考えられない。

 ――――屋敷の兵士たちに聞いて回り、俺たちがドヌクトスへと帰ってきた時に対応したという兵士までたどり着けば、地龍の場所まで案内してくれた。


 ――………………。


 ――…………。


 何というか……。もの凄く罰当たりな気がしてならない……。


「遅くなってごめんなさい」


「どうせ我など威厳がないのだろうさ……」

 うわ……。もの凄く落ち込んでいる……。

 神にも等しい存在が大層に落ち込んでおられる。

 これはやっちまったな兵士の人……。

 いや、俺たちがバタバタとしていたから、善意で世話をしてやろうと思ったんだろうけども……。


「一言、言ってくれればよかったんじゃないだろうか……」


「マンティコアもここに連れてこられたからな。お前達が来るまで見ていてやろうと思ったのだ」


「優しい」

 優しいけども……。見てもらえるのは有りがたいけど、マンティコアは隣で寝ているよ。

 藁の上で大人しく寝てる。

 この時点で近くの兵士に話しかければよかったのでは?


「しかし、流石は侯爵ですね。ワイバーンの厩舎も凄かったですが、こちらの厩舎も立派ですよ」


「ねえ、凄いよね。マンティコアが寝るスペースがあるくらいだからね」

 コクリコとシャルナのあっけらかんな発言に、地龍がピクリと体を震わせる。

 ――…………厩舎に四大聖龍リゾーマタドラゴンが繋がれる光景。

 神にも等しい存在が、マンティコアや馬たちと同じ場所に繋がれている光景。

 世話をしっかりとしてくれているのか、地龍の前には飼い葉の入った桶に、水の入ったバケツが置いてある。

 まあ、一切口をつけた形跡はないけどね。だって馬じゃないからね。ドラゴンだからね! 紅茶だって蔦を上手く使ってカップで飲むドラゴンだから!


「しかし、なぜ兵士は馬だと思ったのだろうか」


「獣人の子が我を馬と言えば、君も馬と言った記憶があるが」


「ああ、はい……。申し訳ありません」

 ベルが頭をさげている。

 マンティコアなんて生き物と一緒に連れてこられたわけだし、勇者が騎乗する幻獣系の獅子と馬って勘違いしたんだろうな。兵士の人。


「そんなに威厳がないだろうか。確かに長や他の同胞にもからかわれたりするのだが……」

 オゥイェ……。意外と根深い心の傷があるようだ。聖龍同士でもフランクなやりとりがあるみたいだな。


「まあ、あれだ。神の子だって厩で生まれたんだ。神聖な場所じゃないか」

 フォローになっているようでなっていないですよゲッコーさん。

 どこの神と子だと言われて終わるだけです。


「どうせ我など……」

 絵に描いたような落ち込みようだな。

 ぶつぶつとなにか言い始めたし……。

 聞こえてくるのは、長に比べれば小さくて頼りないし、水龍のように艶やかでなく土色で地味だし、風龍のように軽妙洒脱ではなく堅物。

 コンプレックスの塊みたいに見えてきた……。

 岩龍になるのも、火龍を意識しての巨大化みたいなもんなんだろうか。

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