PHASE-553【モロトフ・カクテル】

「コクリコは進展がないと言ったけども十分にあるぞ」


「その通りだな」


「お、ありがとう」

 ベルが紅茶を注いでくれる。

 コトネさんとランシェルが平謝りだからな、ベルが代わりにやってくれるのは、俺としては嬉しい。

 用意された茶葉は以前も飲んだ高いやつだ。それを一口飲んでから、俺はコクリコとシャルナに進展があったことを伝える。

 確かに呪いは解けなかったけども、リズベッドを救わなければ姫の呪いの原因が分かることはなかった。これだけでも十分な進展。

 後は俺たちが頑張ればいいと述べる。

 ――……俺たちが頑張ればいいとか、自分からこんな事を率先して発言するとはね。


「よく言った」

 おかげでベルからのポイントは上がるけども。


「まあ、ここまで来たら完遂はしたいな。あ、すまないがブランデーをもらえるかな」

 お、紅茶にブランデーとはゲッコーさん分かってますね。首から下は役立たずな方が好きな飲み方じゃないですか。


「コトネさん、俺にも酒瓶をください。四、五本ほど」


「酒瓶を――ですか? 中身は?」


「中身が無いほうがいいです。大きさとしてはペットボトルの500mlくらいのやつ――って言っても分からないですよね。中瓶サイズで。出来ればコルクなんかでしっかりと栓がしてあるのが理想的ですね」


「おいおい安保闘争か? 中身はどうする? 度数の強い酒なんて意味ないぞ」


「俺、車を召喚できるんで」


「――ああ、そうだな。だが必要か?」


「相手がアンデッドなら無いよりはましかと。ゲッコーさんが使用しつつ、俺も同時に使用した方が効果はあるでしょ」


「まあな」

 鷹揚に頷きつつ、コトネさんが持ってきてくれたブランデーをさっそく手にすれば、紅茶の中にたっぷりと入れて楽しんでいた。

 おいしそうで何より。

 俺もベルが注いでくれた紅茶を有りがたく堪能してから応接室を後にする。


 

 本邸の中庭。本邸だけあって別邸よりもはるかに広い。

 そこに野郎二人が立つ。

 俺とS級さんが一人。

 ゲッコーさんが可燃性の取り扱いを心配してくれたようで、本邸の守りをしていたS級のオジマさんを俺に随伴させてくれた。

 

 早速、中庭にハンヴィーを一台召喚しようとすれば、別段ガソリンが必要ならジェリカンでいいのでは? と、言われたのでジェリカンなる物を出してみる。

 出てきたのはモスグリーンからなる金属製の缶。

 灯油の入ったポリタンクのようなデザインの物だ。


 ――――危険だからと、全ての作業をオジマさんがしてくれた。

 注ぎ口に備わったスパウトから、ガソリンを瓶に入れてくれる。

 

 これなら自分たちが使用するサーメートを配給するけどと言われたけど断った。

 サーメートと呼ばれる焼夷グレネードはゲッコーさんが持っているし、こういう簡単な物でもアンデッドに通用するのか試してみたいしね。

 ガソリンを使用している時点で、この世界では十分にオーバーテクノロジーではあるんだけども。

 

 ガソリン式のモロトフ・カクテルこと火炎瓶は、爆発性が強いので、標的の近くで投げないようにと言われた。

 これが灯油だと可燃性が高い火炎瓶になるらしい。

 なので爆発性のガソリンと、可燃性の灯油を混ぜるのがベストとのことだった。

 

 ちなみに日本において火炎瓶の製造、所持、保管、運搬、使用に該当すれば、火炎瓶処罰法という特別刑法によって罰せられることになるので、日本に帰っても興味本位で作ってはいけないと、目出し帽から唯一みえる鋭い眼光で注意を受けた。

 流石はゲッコーさんの同志であるS級さんである。オジマさんの炯眼は、ゲッコーさんにも負けないくらいに迫力があり、首を縦に振るしか出来なかった。

 そもそも作るつもりもないけど。


 爆発性の高いものなら500mlくらいの量が有れば、アンデッドを倒すにはいたらなくても、吹っ飛ばして転倒させるくらいなら出来そうだな。

 火炎によるスリップダメージも見込める。

 こちらが態勢を整えるって時に使えそう。

 まあ、戦闘になったらの話だけど。話し合いが第一だけど、備えは大事だ。


「よしよし後はこのコルク栓を――」

 コルク栓の頭部分に切れ目を入れて、油に浸した布きれを切れ目に差し込み固定して出来上がり。

 出来上がったコルクを瓶の注ぎ口にしっかりとはめ込んで、更に羊皮紙の切れ端を使って、注ぎ口部分をしっかりと覆って紐で結ぶ。

 割れないように綿を敷き詰めた雑嚢の中に、五本のモロトフ・カクテルを仕舞ってから、ジェリカンをプレイギアに戻す。


「気を付けて扱うんだよ」


「おっす!」

 元気よく返事をすれば、オジマさんは本邸の警護に戻っていった。

 

 ――――モロトフが出来上がったので応接室に戻れば、皆、思い思いにくつろいでいた。


「出来たのか?」


「はい」

 ブランデーの入った紅茶――というよりほぼブランデーを楽しんでいるゲッコーさん。


「いいか、もし日本に戻った時だが、特別刑法――――」


「それはオジマさんにもの凄い目つきで言われたんでいいです」


「あ、そうか……。しっかりしてるな。流石はオジマ」

 さて、ゲッコーさんからは怖い目で睨まれることはなかったけども、こののんびりした雰囲気はどうしたもんか。

 久しぶりのまったりとした時間を楽しんでる。

 有事が発生した時、緩んだ精神が原因で、鈍い動きにならなければいいけど。

 ――――というのは、よけいな心配だな。

 チート二人だけでなく、緩む時は緩み、引き締める時は引き締めるだけの経験は、皆、培ってきているからな。

 

 なので俺も、本日はゆっくりと英気を養おう。

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