PHASE-83【マナとかいう掴み所の無い存在】

「なあ、コクリコ」


「なんです?」

 倒し、逃げ出す敵の姿、得た勝利。

 未だにその余韻に浸っているのか、昼頃になってもコクリコは、勝利者としての笑みを湛えてご満悦。


「お前はまだ十三歳なのに、敵の命を奪うのに躊躇ないな」


「そうですね。敵ですからね。敵対しないならこちらから手は出しませんが、人々を襲う者を倒すのは、歴史に名を残す予定の私からしたら、容赦してはいけないのです」


「そうか……」

 コイツはコイツで、変な使命感で戦ってるんだな。

 後は育った環境の差でもあるか。

 人々を襲う。だから倒す。このくらい簡単に割り切れないと、この世界ではやっていけないな。


「気合いはありましたが、勇者殿の実力が見えませんね。家を召喚するとか面白いですけども」


「察しの通り、発展途上だ。殴り合いはお前に勝てないよ」


「謙虚なことはいい事です。謙虚な者は、人の話を聞き入れて成長しますからね」


「じゃあお前は成長しないんじゃ……」


「なんですとー! 私の謙虚さを知らないとは!」

 いや、だって、自伝、歴史に名を残すって事で、俺らを全力で利用するって口にしてるような奴にとって、謙虚ってのは、対極の位置にあるものだろう。

 現に、ベルもゲッコーさんも、お前に目を向けていないだろ。つまりは、俺の発言が正しいと思っているんだよ。


「お前の謙虚さはどうでもいいや。俺は力を欲する。なあ、俺に魔法を教えてくれよ」


「失礼な事を言いながら、教えを請うてくるとかメチャクチャですが、いいでしょう。勇者に魔法を教えた存在としても記録に残せますからね」

 十三歳でこの意識の高さよ……。

 世の成功者たちってのは、若い頃からコクリコみたいに意識が高く、明確なビジョンを持っているんだろうな。

 俺とは正反対だな。


「修行もいいが、そろそろ休憩は終わりだ。敵に発見されるのも面倒だ。そろそろ移動しよう」

 一服を楽しんで、携帯灰皿にしまえば、ゲッコーさんは周囲に目を向ける。

 煙草のにおいで敵に感知される可能性もあるから、吸わなきゃいいのに。と、ヘタレな俺が、伝説の兵士に言えるはずがない。


「さて、お嬢ちゃん。俺たちはどっちに向かえばいいと思う。予定では西なんだが」


「ゲッコー殿。コクリコです」


「すまない。コクリコ」

 真摯な態度で謝る余裕ある大人。

 とりあえずは王都からは出たけど、まともな情報は得てないからな。西にある町を調べるってのが主目標だ。

 瘴気の漂う制限された状況だと、連絡も取れないから状況は不明なんだよな。

 そう考えると、コクリコは王都を目指すのに、瘴気の地帯を避けながらここまで来たんだよな。

 バイタリティー溢れている。


「貴方方が目指している目標が正解です。このままの進路でいいでしょう」

 手にしたワンドを向けるので、俺がそっちに向かって足を進める。


「堂々と向けてるが、東だぞ……」


「ああ、そっちは東だ」

 呆れるゲッコーさんに、ベルも続く。

 指摘を受ければ、無言でコクリコは反対側にワンドを向け直し、俺は無言で踵を返した――――。


 

 

 森を抜け、平原になれば、ハンヴィーを召喚。使用するのは非武装のものだ。

 コクリコは初めてみる鉄で出来た車両に、怪訝な表情を浮かべる。

 先に乗車して安全をアピール。乗り込んでエンジンをかければ、駆動音にビクリとなっていた。

 初めての物に触れるってのは、こういうことなんだろうな。

 最初は恐る恐るだったが、走り始めれば、ゆったりとした乗り心地に快速。馬車よりも凄い物だと認識すれば、途端にご満悦。流れる風景を楽しんでいる。

 そんな道すがら、魔法に興味のある俺は、コクリコに説明を受ける。


「――マナか」

 先生も言ってたな。


「そうです。マナです」

 ゲームなんかでもお馴染みの名詞。

 この世界には目には見えないけども、マナという存在がある。

 マナは空気と同じように、どこにでも存在するらしく、気付く者は気付くし、気付かない者は生涯、気付く事のない存在だそうだ。

 マナに気付き、それをコントロールするすべを会得すれば、様々な魔法が使用出来るようになるそうだ。


「で、どうやってコントロールすんの?」


「トールは息をするのにいちいち考えて呼吸してますか? 考えるようでは駄目です。感じても駄目です。空気なんていちいち感じないでしょ」

 なんだろうか、この禅問答にして、截拳道の創始者である映画スターを否定するよな発言。

 どうしたものか……。自分で答えを導き出すのが苦手なんですけど。

 すぐにネットの知恵袋で調べちゃう世代なんですけど。

 でもって次の日には、その知識を忘れてる世代なんですけど。

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