PHASE-588【即、軍勢召喚。俺もやろうと思えば出来るけど!】

「気の強い女性が側にいると貴男も大変ね~」


「貴女がこういった状況を作り出しているんだよ。お願いだから話し合いで解決したい」


「私は干渉を受けたくないの。だからそれを条件に――ヴァンパイアだったかしら? あの低位のアンデッドは?」

 ほう。ゼノを低位と言うか。よほど自分の力に自信があるようだ。実際、有るんだろうけど。


「この地を統治した時には、ここは不可侵とするからと言ったから約束したのに。消滅してたら世話ないわね」


「じゃあその約束は破棄されたと言うことで、姫の呪解をしてもらいたい。そうすれば俺たちもこの城には今後、足を踏み入れないから。ってのはどうかな?」

 約束した相手は既にいないんだから、俺たちと約束をしたほうがいいだろう。

 この城は侯爵の所有する城なんだから、勝手に決めては駄目だろうけど、踏み入らない約束で姫が元に戻るってなれば、侯爵だって許してくれるだろう。

 そもそもこの城に価値がないから破棄してるようなもんなんだし。


「そうね~」

 おとがいに食指を当てて考え込むリッチ。

 先ほどまでと違って進展があったと思うべきか。


「――――私、こう見えても義理堅くてね。約束をした以上、あの低位アンデッドがいなくなったとしてもその約束を貫こうと思うの! 不履行ダメ絶対!」

 悪そうに口端をつり上げたと思えば、急に芝居がかったオーバーな動きで左手を胸の部分に添えて、右手と視線を天井へと向けて、腹からしっかりと声を出している。

 舞台劇を見せられている気分だが、こっちとしては拒否されたって事で気分が悪い。


「本当に交渉は決裂?」


「そう考えてもらってもいいかもね~」

 飄々とした美人様だ。

 強い者だけに許されるのが、飄々としたポジション。

 どんな作品においても、飄々として雑魚というのは存在しない。――多分。


「最後通牒」


「しつこい」

 の、一言で一刀両断。

 相手は全くもって話に乗ってくることはない。


「はっきり言って人間って不愉快なのよね。自己顕示欲の塊で、大したことない些末な事で優位に立ちたがるし。上を見るのではなく、下を見て自分を安心させる者達が大半なのよ。気持ち悪いのよ! 私に干渉しないでほしいわけ! 人間!」

 なんだろうか。俺のFPSやMMOプレイ時の心の中を的確に言われているような気がしてならない……。


「あ、あんたも元々は人間だろうが」

 なぜが声が上擦ってしまう俺……。


「今はアンデッドだから」


「でもあんたが思っているような人間――」


「――ばかりじゃないとか。そんな常套句はいらない」

 うん……。強制的に会話を断ち切られたな。

 しかも交渉の余地なしとばかりに、クリスタルの床より這い出てくるようにスケルトン達が湧き出てくる。

 装備からしてこの力の間にいるのはスケルトンソルジャー。

 他にも弓を持ったタイプもいる。

 更にはローブを纏ったミイラみたいな存在。リッチと考えていいだろう。数体確認できる。

 アルトラリッチはリッチも使役できるようだ。

 スタッフを手にし、先端にはめ込まれた球体の貴石は赤黒いオーラを纏っている。

 こちらが身構える前だというのに、瞬く間に――、それこそ十秒も経過していないのに、眼前にはアンデッドの軍勢が展開している光景。

 力の間と称されるこの空間の広さを考えての事なのか、数は五百ほど。

 これが都市などを攻めるとなると大軍とは呼べないだろうが、俺たち五人からすれば百倍の軍勢。十分に大軍だ。

 しかもストレイマーターと戦った時とは違う。

 軍勢は整然とした隊列。スケルトンソルジャー達は息ぴったりに、手にするシールドに利器を叩き付けてこちらを威圧してくる。

 

 整った動きを可能としているのは――、


「リッチだな」


「ですね」

 俺の考えをゲッコーさんが口にする。

 もちろんアルトラリッチの事ではない。

 そのアルトラリッチに使役されているリッチ達だ。

 アルトラリッチが脳なら、リッチ達はその考えを神経となって、部隊という名の四肢に伝達する役割を持っているわけだ。

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