PHASE-1015【菊池】

 気苦労をかけてはしまうけど――、ですけどね――。


「やっぱりこれだけの実力ある連中を処刑で終わらせるのは勿体ないですからね。二人で話をしてた時も傭兵団は欲しいと言ってましたが、どうせならそいつらを束ねるトップ共々ゲットしちゃいましょうよ。肩書き与えれば話に乗ってきますよ」

 未だ座り込んでいるマジョリカの前で堂々とゲスイ事を言う俺。


「ならば爵位という肩書きではなく、主殿が直接支配下に置けばいいだけのことでは?」


「そうなんですけど、爵位持ちでいてもらった方が何かと便利かと思いまして」

 色々と辛い思いもしているぶん、その経験を活かしてくれるのではと思っております。

 そもそも力で押さえ込んでも、こういった気の強い連中はこっちの言うことを素直に聞き入れないだろうし。

 

 マジョリカたちの罪状をちらつかせれば従順にはなるだろうけど、所詮それはうわべだけの忠誠。

 時が経つにつれて恨みの方が大きくなっていくだろうからな。

 俺達に対して心を許せるような仲間になってくれる方がいいだろう。

 罪状で従わせるより、徳で結びつきを得た方がいい。

 ま、所詮は浅はかな素人の考えだから、これまた何かあった時には荀攸さんに多大なご迷惑をおかけすることになるんだろうな。


「何を勝手に話を進めている。私はそんなものは受け入れないぞ!」


「何でも聞き入れるって言ったのは誰ですかね~」


「ぬぅ……うぅ……。しかしだな。私の罪は死によって完結するもの」


「なんだよその格好いい台詞回し。でも駄目。大体、人間なんてほっといてもいずれは死ぬんだからな。その間に色々とやってもらわないと」

 俺なんて蝉が原因で一回死んだ身だからな。この世界に来て色々と経験をさせてもらってますよ。

 主に血みどろなことばっかりだけどな……。

 それと同時に楽しい経験もさせてもらっているから、セラにはその辺は感謝はしてるけども。


「本当におかしな事を言う男だ。何から何までデタラメだな」

 お! 小僧から男に呼称が変わったな。少しは親密度に進展があったと考えていいかもな。


「デタラメで結構。じゃないとお宅が想像している以上のデタラメな存在に、この世界は終わらされるからな」

 魔王を相手にするには、そのくらいのぶっ壊れた考え方も持っとかないといけないんだよね。

 そう説いてやる。


「戦いの時に言っていたのは本当なのか? 魔大陸に言ったというのは?」


「なんでそんな事で嘘をつくんだよ。行ったよ。行って前魔王を救い出したよ。レッドキャップスっていうアクセルの上位互換の縮地ってのを当たり前のように使ってくる連中と戦ってきたよ」

 火龍と地龍を救って浄化をしてもらっているから瘴気が薄まったわけだし、だからカリオネルが馬鹿みたいな野心を抱いて王になろうとして、こっちは北伐に出たわけだしな。

 

 俺達が救い出した四大聖龍リゾーマタドラゴンの二龍がしっかりと浄化作業をしてくれていることが俺の発言に嘘がないということだし、更にその証となるのが俺の装備である火龍装備に、地龍の角の一欠片。

 装備に関しては戦いの場でも目にしているだろう。と、鎧と曲玉を見せつつ伝える。


「ああ、もういい。信じよう。実際に色々と見せられたからな。大国を滅ぼせるというアイアンゴーレムを召喚する力も持っているようだし」


「いや、もっと凄いのあるんだけどな」


「……ここまで来れば驚くまい」

 とか言う割には、目を丸くしてるけどね。

 アーセナルフレーム・エスクード以上の存在となれば、流石に虚言と受け取る可能性もあったけど、俺ならなんでもありの力を有していると判断したのか、苦笑を浮かべていた。


「好意は受けるが、やはり私には責任を取らねばならん」


「団長……」

 力ない声音。ガリオンも同様の声音で続く。


「うるせえ! この人手の足りないご時世に死んで詫びればそれですむと思うなよ! それだけの力があるんなら、それを少しは世のために使え馬鹿たれ。その為の爵位だ。領民だけでなくしっかりと世界と俺たちの為にも励んでもらうぞ。今まで勿体ない時間の使い方をしてたんだ。今からはもっとその時間を有効に使え。その才能をこの世の中のために使え!」


「トールが公爵っぽいことをやってますよ」


「ああ、驚きだ」

 コクリコにゲッコーさんが乗っかってくる。

 別にトリオ漫才を展開しようとは思ってないんですよ。

 横から冷静に言われると、言ってるこっちが恥ずかしくなってくるんだからな。


「だがこのミルド領で暴れてきた我々を人々が受け入れるとでも?」


「俺が今日ここで処刑したのは、マジョリカ・マジマドルとその一党であって、エレクトラ・マジョリカ・ドルカネスとその忠臣たちじゃねえ。なので問題なし。ミルド領主である俺が言ってるんだから問題なしなの! それでも文句あるヤツは出てこいや! ミズーリ湾岸戦争時ガチモードで相手してやんよ! 海戦な! 海戦しばりな! トマホークをど派手にバンバン発射させてもらう! なあ菊池!」


「凄い力業と権力行使ですよ。でもってやっぱり公爵っぽいことを言ってますよ。しかもいい人を演じようとしてます。暴君のように見せつつ、いい人を醸し出してます。そしてキクチって誰ですか?」


「ああ、驚きだ。誰なんだろうな菊池って」


「おぃぃぃぃい! そこの二人! いい加減にしなさいよ。そもそも俺はナチュラルボーンでいい人だろうが」

 まったく。

 一々と茶々を入れてくる。中二病同志たちめ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る