PHASE-1309【間男じゃないよ】

 友好的ではないのが分かったし、こちらとのやり取りで動きが止まったのも良かった。

 相手の動きが止まってくれれば、こちらは隊伍と戦闘準備を整えられるからな。

 

 それに会話も出来るのも有りがたい。たとえ友好的じゃなくても意思疎通が出来るからね。

 

 で、この森で人語を使用可能な種族となれば――、


「お前たち――カクエンって種族だな?」


「だからどうした」

 女の存在に喜んで、飛びかかるという時点でそうなんだろうとは思っていたけども……。


「パロンズ氏」

 相手の動きに警戒するために視線は正面から動かさず、小声のみで後方へと問いかける。


「いやはや、これは驚き」


「でしょうね」

 ギムロンの話だと棍棒やら他者から奪った利器を武器として使用する原始的な種族という話だったけども……。


「フル装備じゃないですか……」


「そのようで……」

 聞いていた話とまったく違う。

 縦にスリットの入った面頬のフルフェイスタイプからなる鉄製の兜。

 鉄製のブレストプレート。

 武装は両手持ちのロングソードと、ショートソードとヒーターシールド持ち。

 ビジョンで後方を窺えば、こちらに鏃を定めている連中の弓は、複合弓のショートボウ。

 木製の弓の握り部分には革が巻かれているし、末弭うらはず本弭もとはずは金属で補強されている。

 そしてそれらの装備は全てが統一されたもの。


「これは歴とした軍隊じゃないか」


「そのようで……」

 さっきから同様の内容でしか返してくれないパロンズ氏。


「挨拶もなしに不愉快な行動。せめて顔でも見せてはどうですか」

 俺の横から俺より一歩前に出て、コクリコが発する。


「いいだろう」

 って、女が言えば素直に応じるようだな……。

 面頬を上へと動かし素顔を見せてくる。


「確かに猿のような顔をしている種族なんだな」

 コクリコの問いかけで見せてくる表情はにたついたもの。

 青黒い体毛と顔面部分は朱色の肌。

 濁った黄色の瞳。

 ギムロンの発言どおりの猿の亜人。


「いきなりの攻撃に対して言いたいことはありますかね?」

 冷静な対応でコクリコが問うてくれる。

 男が問うても苛立ちの死ね発言しかないからと、俺の代弁をしてくれるのはありがたい。


「娘。俺の子を産め!」

 ――……問うて返ってくる発言に、こっちサイドの時が止まる……。

 しじまの訪れの中で、ココクリコの喉からコクンと音がすれば――、


「凄いド直球で、とんでもない事を言ってきましたよ!」

 ――……コクリコを一言で怖じけさせるとは……。

 樹上からこちらを見下ろしてくる発言者に対してコクリコが後退り。俺の立つ位置へと戻ってきた。

 コクリコを怖じけさせる発言をするとはね……。

 でもってこの少女を女として見ているようだ。


「なんでしょうか? 私に向けるその視線は? 何を意味しているのですか?」


「ナンデモナイヨ」


「だから片言!」

 と、コクリコが声を荒げるところで、


「おう!?」

 俺へと矢が飛んでくる。

 鋭さと、腸抉のカエシの凶悪さに相応しくない射術。

 身体能力を向上させるピリアを使用しなくても見切れる。

 お返しに射手を睨めば、今度は面頬から素顔を見せているカクエンがナイフを投擲。

 矢よりはコントロールが良かったけども、籠手で難なくはたき落とせる程度の投擲力。

 で、コイツに対しても睨みを利かせると、


「俺の女と気安く話をするな!」


「「ええぇ……」」

 俺の睨みなんて意にも返さず、それ以上にコクリコと話す俺の姿が許せなかった模様……。

 すでにカクエンの一人から恋人扱いをされているコクリコは、もの凄く嫌そうな表情と声。

 ここに俺の驚きと共に出た声が交わった。

 自分の女発言をした素顔を見せている一人を皮切りに――、


「じゃあ、俺は耳長」


「俺は最後尾の女」

 ――と言い始めれば、俺も俺もと立候補してくる。

 三人の女性は困惑した表情。


「やったな。モテモテじゃねえか」


「嫌ですよ……」


「「「「俺達の女と話すな!!!!」」」」


「「ええぇ……」」

 またしてもコクリコとシンクロ。

 コイツ等、女を共有しようとするんだな。

 自分が自分がと奪い合うのかと思った。

 そのままお互いがつぶし合ってくれれば良かったのにな。


 どちらにしても、女性サイドからすればたまったもんじゃない。

 この森に女を伴っては駄目だと助言してくれた、ギムロンやアラムロス窟のドワーフさん達の言っている事が、目の前の連中を目の当たりにして分かるというもの。


「おっかない連中ですよ……」

 弱々しいコクリコ。

 ギルドハウスではミスリルフライパンの縁を股間に打ち込むという素振りを意気込みと共に見せてくれたけど、実際に下品な女好き達を目にすれば、表情は曇ったものへとなってしまっている。


 女性陣のリアクションを無視して会話を弾ませるカクエン達だったが、今度は俺へと目を向けてくる。


「男が邪魔だ」


「そうだ! 邪魔だ!」


「女を犯せない」


「本当、どストレートだな……」


「五月蠅い! 俺の女を取ろうとするなんて! 殺してやる!」

 面頬を上げている一人がこちらに対し、手にしたロングソードの切っ先を向けてくる。

 切っ先を向けてくる前の会話だけを切り取れば、夫と間男の一悶着みたいだな……。

 もしくは独りよがりのストーカー。

 うん、猿の思考は後者の方だな。

 

 やれやれだな……。

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