PHASE-21【潜入、準備中】

「どうだベル」


「ああ、信じよう」

 俺がベルを召喚したことを素直に信じてくれた。

 こうやって、理解したことには素早く順応するところはいいな。

 態度はお堅そうだけど、実際は柔軟。

 だからこそ、その若さで中佐にまでなってるんだろうな。


 ――――ゲッコーさんに、この世界の状況を掻い摘まみつつ、現状の人質の有無と、砦への侵入を丁寧に説明。

 聞いている間は煙草に火をつけて、紫煙を燻らせる。渋い男のその姿は、女ならクラッとしてしまうかっこよさがある。

 ――――携帯灰皿に吸い殻を入れつつ、口から煙を出し切れば、


「異世界に亜人。絶望的な人類に、トールによる召喚か――――」


「トールじゃなく、亨です」


「いいじゃないかトールで。雷神の名と同じだ。強いぞ!」

 RPGなんかだとお馴染みの神様だな。

 どちらかというと、手にした武器の方が有名な神様だと俺は認識している。


「とりあえず、夜中になるまで待とうか」


「え!?」


「どうした? 砦には人質がいる可能性があるんだろう? なら隠密行動がいいだろう」

 驚いたのは、二つ返事でこの作戦を受けてくれたことなんだけど。

 状況を聞いてきたから、協力はしてくれると思ったけど、あまりにもすんなりだったからね。

 正直、助かるし、うれしい。

 プレイギアに目を向ける。

 ゲッコーさんのパラメーター。

 武力95

 知力94 

 統率98 

 魅力100 

 忠誠50

 

 忠誠は50……、50か……。

 二つ返事だったから、かなり高いと思ったんだけど、真ん中か。

 俺に対しては、未だに半信半疑ってとこか。

 まあ、ベルの0よりはましか……。

 魅力値はベル同様に100なのが凄いな。

 流石はカリスマによって仲間を増やしていくだけはある。統率はベルより高いし、兵士としてだけでなく、指導者としても一流ってところだな。

 ――――峡谷の隙間から近くの山々に目を向ければ、山が美しい紅に染まっている。でもすぐにその色合いは消えていき、次第に闇に染まっていく。

 峡谷内は、外界の風景と違い、すでに深い闇だけど。

 ――――そんな中を壁沿いに三人で移動。見張りがいるかを確認しつつ、静かに闇の中を歩く。

 明かりが無くても、足元はなんとか見えるレベル。

 その間、乗ってきた馬たちはいななくこともなく行動し、「よく育てられている」って、二頭をゲッコーさんが褒めていた――――。


「今夜は満月か」

 完全に夜が訪れた。

 でも足元は先ほどの移動時よりも楽である。

 叢雲もなく、輝く月が大地をよく照らしてくれる。川面もキラキラと照らされ、青白い反射で幻想的な美しさだ。


「腹へった……」

 王都から出て、何も口にしていないからな……。

 ポツリと空腹を漏らせば、ゲッコーさんがミリタリーポーチから、ゲーム内に出て来る固形食を取り出す。

 有名どころの企業とコラボした、栄養補助食品だ。

 一人、一箱。


「――――美味いな」

 ベルの驚き。きっと自身が出ているゲーム内のレーションは、美味しくないんだろうな。


「予定外と言いたいくらいの明るさですが、ゲッコーさんなら問題ないですよね」


「どうだろうな」

 油断は出来ないのか、確実な返答は返ってこない。

 相手は人とは違う亜人。しかもオークだ。

 豚のような鼻から察すれば、嗅覚は鋭いかもしれない。夜行性の動物並みの視力を持っていたら。と、俺から聞いた情報から、最悪な状況を想定。それを主軸として行動する。それがこの人のスタイル。


「ふむ」

 おお! どこからともなく、いくつもの銃が出てきた。

 それを地面に敷いた、モスグリーンのシートの上に置いていく。


「面妖な……」

 ベルが驚きながら口を開く。

 そう思っても仕方ない。ゲーム内だと、明らかに一人では携行できない装備を持ち運んでいるからな。

 様々な銃に、ロケットランチャーなどの重量級武器。ゲームだから許される携行だ。

 これがこの現実世界で起これば魔法の類いだな。

 でも、全身に炎を纏って操るのも、俺からしたら十分に面妖だけどな。

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