PHASE-20【伝説の兵士】

 どんどんと輝きが強くなり、手で目を覆いながら見続ければ、光の中から影が現れた。

 人が片膝をついたような姿勢の影だった。影がやおら立ち上がれば、広がっていた輝きが集光し、やがて消えていく。

 大丈夫だよな? 砦サイドに気付かれてないよな。一応は死角で実行したけども、光が強すぎたから不安だ。


「――なんだ?」

 うん、やはりベルと同じリアクションだな。

 トレードマークである、額に巻いたグレーカラーのバンダナがたなびいている。

 茶色い髪に碧眼の、大柄な男性。

 

「どうも、ゲッコーさん」


「お前は?」


「俺は遠坂 亨っていいます。ここでは勘違いされて、トールって呼ばれますが」


「日本人か?」


「はい」

 疑問符ではあるみたいだけど、流石は現実世界を題材にしたゲームのキャラだけあって、俺に対しての警戒がベルよりは柔らかい。


「ニホン?」

 てな感じで、ベルは分かっていないからな。


「俺たちは敵ではありません。伝説の兵士と呼ばれ、英雄である貴男の力を借りたいんです」

 ゲーム、ペネトレーションシリーズのハイドアンドシーク。

 可能な限り敵に見つからずに、目的を達成する作品。

 そのゲームの主人公であるゲッコー。

 ステルスミッションのスペシャリスト、この状況ではもってこいのキャラクターだ。


「よろしくお願いします」

 手を出して、握手を求める。

 ――――ベルと違って、すんなりと俺を受け入れてくれるのか、握手をしてくれた。


「腰にぶら下げた刀からして、剣術か剣道をやっているようだが、外見からしてシニアハイスクールかな? となれば、学んでいるのは後者だな。だが、最近は修練をサボっているようだ」

 ――……おう、バレバレだぜ。


「なんで!?」


「握手を容易に求めるのはよくない。手からだけでも情報は得られるぞ。そもそも日本人がこのご時世に、腰に刀をぶら下げているのは珍妙。加えて、なんとも珍しい真っ赤な髪の美人と行動。とても異様だ。となれば現在、俺は普通じゃない地にいると推測できる。で、君の疑問だが、掌のマメは、刀剣を持つ者特有とくゆうのでき方だ。サボっていると思ったのは、そのマメが綺麗になりかけている感触だったからな」


「さ、流石は伝説の兵士」


「そう呼ぶのは、仲間や俺のことを知る者だけ。平和な日本の地に住んでいるのにそれを知り、口に出来るということは、信じたくはないが、やはりここは俺の知る世界じゃないな」

 かっこいい~。

 渋い声もだけど、素早く状況を理解するこの柔軟な思考がかっこよすぎる。


「で、そちらの美人は軍服からして、WW1あたりのようだが、俺の知る国に当てはめるとするならば、ドイツの士官かな? 特注のようだが」


「ドイツ? 先ほどのニホン同様に聞かない名ですね」


「そうか」

 架空の世界だからな。まあ、第一次世界大戦ダブダブワンをモチーフにしているゲームだから、ゲッコーさんの推理は間違っていない。

 そんなゲッコーさんに対して、目上で、しかも軍人と理解したのか、ベルは敬語だ。


「そちらも特注のようで――――」

 ベルはゲッコーさんの軍服が珍しいのか、「失礼します」と、言いながら見回していた。

 忍者服を軍服にしたような、体にフィットした作り。海外漫画のヒーローのようなピッチリ系だ。

 色はゲーム同様にくすみのある灰色。

 ゲーム内での会話にあるけど、黒は闇に溶け込まないそうで、アッシュグレーのような色の方が、暗闇では溶け込むとかなんとか言ってたな。


「う、うん。で、状況は?」

 ベルの視線から逃れるように、俺に説明を求めてきた。

 状況と聞いてくるって事は、力になって欲しいって事を受け入れてくれたと判断していいな。

 本当にありがたい。

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