PHASE-379【拝謁】

 現状、無手の状態なんだけども、もし何かあったとしても、ゲッコーさんがいる時点で、武器を預けさせても問題ないんだよな。

 この人は宙空から武器を取り出すことが出来るからな。


 俺も籠手は預けなくて良かったし。

 炎の盾があれば、普通に戦える。

 ま、戦うって事はないだろうけど、色々と考えて行動はしないといけないからな。

 

 三人の体が完全に室内へと入ったところで、


「よく来てくださいました」

 長テーブルのある大広間の上座の方から、俺たちに向けられる台詞。

 迎えてくれる存在は、スカートの裾をつまんで軽く持ち上げて、片膝を軽く曲げての挨拶をしてくれる。

 カーテシーってやつだ。

 姿勢を戻して真っ直ぐと俺たちと顔を合わせる。

 あどけなさが残った面貌。少女と青年の間といった感じだな。

 胸元の開いた青色のドレスを着たいのは、大人びたいお年頃なのだろう。

 おしゃまなコクリコとはまた違った背伸びの仕方だ。

 

 隣には魔術師と思われる濃い茶色のクロークを纏った、青髪ショートの眼鏡美人さん。

 この人が姫様を護衛する最終防衛ラインといったところか。

 姫様の横にいる時点でかなりの使い手なんだろうな。

 ブラウン色の瞳でこちらをじっと見てくる。切れ長の目は、姫様に対して不遜のないようにというのを暗に伝えてきている。


「従者が失礼を」

 目つきを察した姫様が俺たちに謝罪。


「彼女は王都から私をずっと守ってくれた、ハイウィザードのライラといいます」

 おお! 本物のハイウィザードを初めて見たよ。

 なんちゃらウィザードが以前、ハイの称号を頭につけてたよな。

 勇者である俺を倒したから、現在はロードなんて調子にのった称号を名乗っているけども。

 眼界の美人はまがいものじゃない、本物のハイウィザードだ。


「ライラ」

 姫様に促されて、


「宮廷魔道師をしておりました、ライラ・マクシムスといいます」

 名乗るだけで、一礼とかの動作はない。

 うむ、クールだ。ベル並みに。

 いや、ベルは社交的な応対は出来る人物。だが、このライラって人はつっけんどんな性格っぽいな。

 姫様以外には心を開かないタイプかな。

 漫画とかだと、姫様大好きな百合百合ポジションだよな。

 加えて、ポンコツスキルを持っていたりするよね。ま、現実では流石にそれはないよな。


 それと気になる事がある――――。


「宮廷魔道師をしておりました。って、王都は無事なんだけど。なぜに過去で語る?」


「私は姫様の魔道師。姫様がいるところが私のいる場所。なので宮廷魔道師などという役職など不要。私が欲するのは姫様専用という役職」

 

「「オウ、イェ……」」

 クールな仮面が剥げた途端に、恍惚とした表情になった……。

 恥ずかしげもなく堂々と言い切りやがったな……。

 俺とゲッコーさんが後退りしてしまう。

 まさか想像していたとおりの人物だったとは……。しかも本人の横で姫様専用とか言ってんじゃねえよ。

 聞きようよっては完全にエロいぞ。


 こういうのは、好きな人にはデレッとして、それ以外には興味ないからな~。

 まったく、初めて姫に拝謁すんのに、面倒くせえのがいるな……。

 美人だから尚更くやまれる性癖だ。


「ライラの紹介が先になってしまいましたが、私がラスター・フロイツ・コールブランドの娘、プリシュカ・ファラン・コールブランドです」

 改めてカーテシーにて挨拶をしてくれる。


「遠坂 亨といいます。お父上に勇者の称号と、指揮権限を持つことが許される、六花の外套をいただきました。ギルド・雷帝の戦槌では会頭を務めております」

 おし、十六歳にしては社会的な挨拶が出来たんじゃないだろうか。

 お父上とか普段口にしないから、言ってて恥ずかしくなったけども。

 

 今まで信じてもらえない日々を送ってきたから、六花のマントがよく見えるように、ズイッと姫の前で背中を向ける。


「確かに六花の外套。貴男様こそ、この世界を救ってくださる救世主様」

 カーテシーとはちがい、頭を深々とさげる。

 カーテシーが社交的な挨拶とするなら、この一礼は、心の底からの感謝が含まれているようだった。

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