PHASE-1168【ネタ要素で大痛打を与えたとは言えない】
――――種族の垣根を取り除きたいという俺の考えをデミタスへと滔々と述べた。
――……静寂の訪れ。
この間がすごく怖い……。
死刑執行を待たされる気分だ……。
「非常に不愉快ではあるけど、私を前にし、恐れを抱きながらも立ち塞がるゴブリン達の義理を重んじる精神に免じて――今回は見逃してやる」
「そりゃ助かるってもんだ」
俺の立ち位置からすれば本当に助かったわけだ。
ゴブリン達を一蹴して俺を殺すなんて可能なのは分かっている。
いくら傷の治りが遅い状態だとはいえ、動けない俺を殺すなんて簡単でしかないからな。
「だが今回だけ。そもそも本来の目的はこの国を中枢から崩壊させるもの。お前の殺害は今後、主目標としてから下してやる。せいぜい私以外に殺されないことね」
――…………。
「なに、その顔は?」
「ああ、いや。言いようが完全に後々、味方になってくれるヤツの台詞そのものだったから。なんならヒロイン候補に――んぐぅん!?」
「やはりこの場で殺してあげようか?」
――……ゴブリン達が立ち塞がっていても何の意味も無いとばかりに俺の目の前に立てば、強烈な踏みつけ。
ガッツリと頭を踏みつけられる俺……。
この辺はベルと違って優しさは微塵もなく本気で踏んでくる。
まあ性癖が性癖なら大層なご褒美なんだろうが……。
俺は痛くて苦しいだけだけ……。
「殺してあげようか?」
再度、問うてくるので、
「丁重に……お断り致します」
と、弱々しく返す。
「ふんっ」
「ぎゅん!」
足をどける前に強い踏みつけをされてからの解放。
「この体の状態でここに留まれば追っ手への抵抗は難しい。私はまだ成すべき事を成していない。故に死ぬことは出来ない。さっさと撤退したいがどうしても腑に落ちない事がある」
「それは感知タイプであるのに、なんで俺の存在に気付くことが出来なかったかって事か?」
「そう」
「手の内をそう簡単に晒すわ……教えてやろう。なので踏みつけようとしないでもらいたい……」
本当に……殺そうと思えばいつでも殺せる状況だな。生殺与奪を有しているって言うだけある。
でも、発言どおり今回は見逃してくれるということなのか、俺を守ってくれるゴブリン達は過剰に反応しない。
デミタスが纏っていた殺気が今はないからってことなのかな?
これだけの実力者だと殺気を纏うことなく対象者を殺害するなんて簡単にできそうだけども……。
――ここは素直に手の内を晒すことで殺されるのを回避しよう。
というか、動けない俺にはその選択肢しかない……。
デスベアラーと同じような真面目タイプだからな。発言した以上は約束は守るだろう。
デスベアラーと違って策謀でこの国を傾けようとしてた存在だから約束を反故するって可能性もあるけども……。
――――伏臥の状態だと話しにくいだろうと察してくれたのか、ゴブリン達が気を利かせて俺を起こし、側の巨木まで運んでくれる。
体を木へと預けてからデミタスに教える。
ここで嘘をついて相手の不評を買えば殺される可能性もあるので真実を伝えた。
――……まったく勇者だってのに情けないったらありゃしない……。
強者相手に一人で不安だってのに、この場にパーティーメンバーがいなくて良かったと思っている俺もいる。
――――俺が召喚したギャルゲー主人公の家。
普段は旅の最中、野営をするのを回避する為に使用しているが、この家には不思議な力もある。
といってもゲーム内だと完全なネタ要素だけど。
今回の戦いではそのネタ要素を理解して利用した事で、デミタスの背後を取ることが出来たわけだ。
前例があったから試すことも出来た。
前例がなかったなら試そうとも思わないし、そもそもこんな攻撃手段を思いつくこともなかっただろう。
ネタ要素などと言ってもデミタスには理解できないのでそこは端折り、ある一定の空間に入り込めば気配を察知されなくなるという事だけを伝えた。
「その一定の空間というのがあの小部屋と周辺だったわけね。侵入したかぎりでは浴室のようだったけど」
「まあな」
「なぜ浴室付近で気配を感じる事が出来なくなるのかしら?」
「うん。そういった仕様なんだから仕方ない」
「何とも面妖なことね。まあ、お前が使用するモノは全てが面妖な力を有しているようだけど」
「おう、そうだな」
「しかし解せないわね。浴室で気配が察知できなくなるなんて何の意味があるのかしら? 本来、浴室は最も無防備になる場所。そこで気配が察知できなくなるとは無意味な効力よね」
「でも効力はあっただろう」
「まあ――ね」
無意味と言うもそれで手痛いダメージを受ければ、俺の発言を受け入れる。
本来ならデミタスが思った感想が正しいんだろうけどな。
でもな――、察知できなくなるってところに浪漫があるんだよ。
ギャルゲーの浪漫。それはヒロイン達が入浴しているところに、主人公が気付くことなく浴室に入るということ。
そしてその主人公が入室しても目と目が合うまでヒロイン達も気付かないという仕様なのがギャルゲーの浴室あるあるなのだから。
事実、この家を初めて召喚した時、いま目の前にいるデミタス以上に感知能力が高いベルであっても、俺の入室に気付くのにワンテンポ遅れたし、俺もベルが入っているなんて分からなかったからな。
今回はそのギャルゲーにおけるギャグ要素にして、ご都合お色気シーンが発生する場所を利用してデミタスに大痛打を見舞うことが出来たわけだ。
家の効力を教えるにしても、この部分だけは絶対に口に出来ないけどね。
まず言っても信じてくれないだろうし、信じたとしたら屈辱でしかないだろうからな。
汚点は消し去るとばかりに約束を反故にして、俺を殺害するという考えになられては困る。
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