PHASE-1192【それ崩壊していくやつだから】
『なんだよ。いつもならゲームに即、誘ってくるくせに。今回はそんなこともなくメールだけなんだからな』
『ゲームはしてるのよ。今は休憩中だけど』
『だったらいつもみたいに誘ってくれてもいいだろう』
『悪いけど今は分隊が埋まっているから』
「あ、ふ~ん」
と、メールの返信を目にして思わず声を漏らしてしまった。
驚きよりもなんか軽くショックを受けてしまう。
セラといえばコミュ力のない死神。
今までフレンドなんておらず、一兆人とかおおよそ神の言い様とは思えないくらいに頭の悪い強がりを見せていたんだけどな。
それが今では俺以外と分隊を組むまでになっている。
コクリコの成長には感心したが、セラの成長には寂しさを覚えてしまった。
『いや~私の実力に皆から協力してほしいって内容のメールが来るのよ。引く手あまた♪』
語末のマークで上機嫌なのが分かる。
どうやら強がりからの嘘ではないようだ。
『なんだ? そんなにフレンドが出来たのか』
『そうなのよ』
あ、一兆人いるって設定を忘れている。
それくらいに有頂天なんだな。
『マイクをオフにするのを忘れて、ボイスチャットをオープンにしたままプレイしていたら、突如としてフレンド依頼が殺到しちゃってね。なんか天界の男性プレイヤー達にセラさんが必要です! とか。自分が守ります! とか。私のために献身的なのよ』
――……うわ~……。
それ突如としてゲームの世界に女性プレイヤーが降臨した時の野郎たちあるあるな行動じゃないか……。
『……あれだろ。クランとかに誘われたろ』
『そうなのよ。方々から誘いがきたわよ♪』
相当に嬉しかったようだな……。
『とにかくレベルアップおめでとう。今回は短いやり取りだけど次はしっかりと語り合いましょう。何たって私を必要としてる人が多いから、今回は先約であるそっちを優先させてもらうわね♪』
『おう。じゃあ次な』
で、普段とは違い淡泊なやり取りで終えてしまう。
「ふぅ~」
窓を開く。
火龍装備を外した状態だと冷たさを帯びた夜気をしっかりと肌で感じる事が出来る。
室内の暖かさと夜気が混じり合ってなんとも心地がいい。
今も残る戦いの精神的な疲れを癒やしてくれるけども……。
――……うん……。
「完全にチヤホヤされて勘違いしている、オタサーの姫ムーブやないかい!」
外に向かって吠える俺。
間違いなく今後、増長するであろうセラの姿は想像に難くない……。
そしてそんな女に振り回されることで元々の野郎たちのクランやらフレンドが、音を立てて崩れていくという未来も想像に難くない……。
女性プレイヤーを一プレイヤーとして見れなくなった野郎たちはその時点で駄目なんだよな~。
「崩壊の序曲は奏でられた」
罪の所在は、勘違いさせていくように囲っていく野郎たちに有るんだけどな。
クラン崩壊、フレンドとの亀裂。破滅へと向けて歩み出したのは、野郎たち自らだからな。
なので同情はしない。
こりゃ次の連絡ではセラのヤツ――完全にボッチになってそうな気がするな。
というか――そうであれ!
と、情けない俺。
なにが情けないって、変な感情が俺にも芽生えている。
なに人の女に群がってんだよ! っていう訳の分からん心理。
別に恋人じゃないけど、他の男と仲良くする女友達は嫌だという妙な感情が芽生えてしまったのがなんか情けなかった……。
――――。
「どうされました?」
心配そうにエリスが問うてくる。
「ああ、いやな。ちょっと緊張しているんだ」
と、昨晩のセラのことを未だにひっぱている俺。
まったく……。厳かな空間だというのに、何を馬鹿な事を思い出しているんだか……。
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