PHASE-1278【残した者達のために】
――ロンゲルさんに誘導され、ダイフクと馬車を厩舎へと預ける。
厩舎には鍛え抜かれた軍馬が繋がれており、皆、鳴くこともなく佇んでいる。
蹴られるだけで即昇天できそうな筋肉に覆われた軍馬がずらりと居並ぶ厩舎は迫力満点。
高順氏の指揮下に入っているだけはあるな。
通常スキルである【騎兵調練】は、乗り手だけでなく馬にも効果がでるってことかもしれない。
更に【騎兵用兵】と高順氏の異名でもあるユニークスキル【陥陣営】があるわけだからな。
敵からしたら野戦なんてしたくもないよな。
野戦に加えて野営地なんて築いてしまえば【陥陣営】の本領発揮。
ここを攻めてきた
まさか寡兵で打って出てくるとは思わなかっただろうし、そんな寡兵に前線の味方が死屍累々へと変えられていき、その死が自分にも訪れることになったんだろうからな。
今の要塞はあの時よりも兵数が増えているし、要塞も発展しているから余計に攻めたいと思わないだろう。
――。
「こちらの昇降機を使用してください」
厩舎内にはエレベーターもある。
皆して乗り込めば、
「やってくれ」
ロンゲルさんが発せば、上の方から方言による返事。
「お、おお……なんか不安定ですよ。これなら階段のほうがよかったですね」
コクリコが指摘するように安定感には課題が残っているが、上がっていく速度は悪くない。
――……まあ、悪くはなかったが……、
「なるほど……な」
木壁の壁上まで運んでもらえば、上昇が人力だったということを知り、冷や汗が出た。
方言兵さん達が一生懸命になってハンドルを回す事で上昇するシンプルな構造だった。
手が離れていたら、俺達は落下してたんだろうな……。
「こういったモノもこの要塞には数カ所、設置されています」
「安全性が向上してくれれば尚良しですね」
「そこは要改善ですな」
コレを見てしまうと、コクリコが言うように階段を使用してもよかったが、こういったギミックを体験してもらいたかったのかもな。
感想としては、エルフの国にあった風魔法を利用した昇降機に、直ぐにでも改修してもらおう。だな。
「ここから先も、このロンゲル・ポッケオが案内します」
「――はい」
自分をアピールする絶好の機会とばかりに、嬉々とした声である。
――ロンゲルさんの案内で壁上を歩く。
現在、高順氏がいるのは山城の最上階である天守だそうで、壁上から直通の通路があるという。
木壁の高さは五階建ての建物くらいだから15メートルほど。壁上の幅は大人が六、七人、横に並んで歩いても余裕があるので4メートル弱はある。
つまりはそれだけ壁の厚みもあるということだ。
「凄いですね」
「この要塞は日々、姿を変えていきます」
「最前線で常に励んでくださり感謝します」
「公爵様が頭なんて下げないでください。ここに来てからというもの、我々の仕事は監視が主です。汗をかくのは鍛練と増築作業ばかりで、命の危険は少ないもんです。それで俸給が貰えるんですから兵は喜んでおりますよ」
「ですが地頭としてバリタン伯から領地の一部も任されているじゃないですか。長期滞在すれば弊害も出てきそうですが?」
――聞けば預かる領地どころではないと返ってくる。
この世界が魔王に呑み込まれれば全てを失ってしまう。
ならばそれを阻止する為に、自分たちが出来る事をやらなければならない。
出来る事ととなれば、前へと立って脅威に抗う事だという。
抗う中で励み活躍すれば、俸給だけでなく褒賞も貰う事が出来る。
もし自分たちになにかあっても、残された者達にそれらが渡れば問題ない。
そいつ等が腹を空かすことなく生きていけると考えれば、憂い無く前線に立って槍を振り回す事が出来ます。と、破顔と共に語ってくれた。
「……」
「どうしました公爵様? 失言でもありましたか?」
「いやいや、武人として尊敬しないといけない方だと思ったので」
「よしてくださいよ。それに武人として尊敬するのなら、ここの指揮官殿こそですよ」
「確かに高順氏は手本となるような人物ですからね。だとしても後方の者達のために我が身を前へと踏み出せるのは尊敬しかありません」
「公爵様も勇者として誰よりも前に立っておられるじゃないですか。自分たちも尊敬しておりますよ。それに我々が長期間、領地を離れられるのも、代行として
「ほうほう」
流石はバリタン伯爵の領地の一部を任されている人物だ。伯爵とタイプが似ているのかもしれない。
確か伯爵も瘴気が浄化されて領地に戻った時、戻るのが遅いと言われて奥さんに鉄拳制裁されたって話をしていたような記憶がある。
ロンゲルさんも奥さんの尻に敷かれているって感じなのかもしれない。
これに関しては内の親父殿も一緒だな。
でもって、俺も……。
「女元気で家安泰」
ついつい口から漏れてしまったが、
「その通りです。流石は公爵様、女の強さを理解していらっしゃる」
「俺のパーティーも強いのばかりですから」
「ですな。いやはや苦労もしているでしょうね~」
「しているわけないでしょう」
と、俺達の後方に続くコクリコから発言が飛べば、ロンゲルさんはコクリコに対してペコペコと頭を下げていた。
貴族でなくても地頭として権力を有している人物に、頭を下げさせるコクリコの剛胆さ。
誰に対してもブレない。
前王弟である爺様にもブレないんだから、当然といえば当然か。
――なんてやり取りをしつつ先へと進んでいく。
壁上からいくつかに別れた枝道の一つを進めば、岩山を掘削した通路へと続く。
足元は岩を綺麗に加工して作られた階段であり、上へと続いていた。
「見事ですな」
と、パロンズ氏が感嘆の声を発せば、その声が通路に響く。
壁に沿って等間隔に置かれた燭台は、俺の身長ほどの支柱からなっている。
燭台に刺された蝋燭が煌々と灯っており、照らされる階段をのぼっていく――。
ロンゲルさんが立ち止まり、鉄扉前の立哨に対して払うように手を動かせば、鉄扉の左右に立つ立哨は、扉の前に×マークを書いていた槍を天井へと向ける。
「さあ、どうぞ」
立哨に会釈で返しつつ、ロンゲルさんが開いてくれる扉から中へとお邪魔する。
「久しいな」
「北伐時はお世話になりました。高順氏。お元気そうでなによりです」
「貴公――いや貴殿もな」
わざわざ言い直さなくても良いのにね。
確か貴公は対等かそれ以下に対して使用するんだよな。
言い直して貴殿って呼んでくれるってことは、高順氏は俺を勇者として認めてくれているって事かもな。
白銀に輝く鎧兜と、膝裏まである赤い外套。
顔がだけが露出した兜の頂部には赤い毛の飾り。
顎先で整えられたヒゲと、鼻筋の通った精悍な顔立ちからなるダンディズム。
歴戦の勇士特有の強い眼光は出会った時から変わらない。
相も変わらず、一分の隙もない。
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