PHASE-1645【大商人】

 成果も兜もガバガバと言われるのは仕方ないし、俺もそう思っている。

 

 だから、


「最悪、ゲッコーさん達を喚ぼうかとも考えている」

 南伐の事を考えると南に対しての防衛は重要だから、それだけは避けたいんだけども、あの監視下の中で動き回るとなれば難しい。

 となれば欲するのは、ステルスミッションのスペシャリスト。


「いや、我々だけで解決しよう」

 と、ベル。

 南伐への準備と防衛は現状で最重要。

 南方の瘴気がなくなれば、それを知った蹂躙王ベヘモトの軍勢も動かざるを得なくなる。

 今までは小出しで要塞トールハンマーへと攻めてきたが、それこそ大軍勢で攻めてくる可能性もある。

 一騎当千の英傑は多ければ多いほどいい。

 だからこそ、ここの案件は自分たちで解決するべきだとベルは主張。

 やっぱりそういった考えになるよね。


「そういえば案内役はどうしたんだ?」


「期待に応えられなかったってことで落ち込んでてね」


「部屋に戻っていますよ」

 と、俺に続いてエマエスと同室であるルーフェンスさんがガリオンへと説明。

 防御壁の内側に入れただけでも良かったんだけどね。

 まあ、成果はなかったけど……。

 だが内部構造はわずかだが知ることができた。

 難しいのは同じ建物ばかりが建っていて、見分けがつきにくいこと。

 で、客人用以外は常に見張りが立っている。

 スニーキングスキルがなければ潜入は難しいので、別の切り口を考えないといけないわけだが……。


「なんか手はないのか?」


「ガリオン――あったらゲッコーさん達を喚ぼうという考えにはならないんだよ」


「まったく勇者のくせに知恵がないやつだ」


「うるせえ筋肉だな。だったらお前が――」

 知恵を授けて見せろって言いたかったけど、コイツは正面切って大暴れというのを実行するかもしれないので発言を中断。


「にしても内側は金持ち連中が凄く多かったぞ。ほぼ成金ぽかったけど」

 と、話をそらす。


「俺以外は皆、高そうな身なりの連中ばかりだった。そんな連中が不平をあまり漏らすことなく小一時間ほど列に並んでいたんだよな」

 継げば、


「あれだろ。ここに来た時にエマエスが言っていた不老だか不死だかの薬と関係してるんじゃねえか? 我が儘言うとそういった恩恵を受けられないんだろうよ」


「本当にそんなのがあるのかな? あればもっと大きな話題になっているだろうに」


「まあ、そうだな。タークの旦那もそういった情報は耳にしていないんだろう?」


「もちろんです」

 ルーフェンスさんの返事にガリオンは頤に手を当て、


「普段以上に内側の警戒が強くなっている。不老不死とは別に何かしらのお披露目があるのかもな」

 ガリオンはそう言いながらラウンジを見渡す。俺たちもそれに続く。

 金持ち連中が挨拶を交わし合い、ソファに腰を下ろして食事。

 さながら懇親会のようであり、お互いの関係性を深め合っている。

 金持ち連中の目的がガリオンの予想通りお披露目となれば――その対象はゴロ太しか考えられない。

 お披露目の内容が何なのかを察するベルは眉尻を上げる。

 直ぐさまミルモンがベルをなだめつつ、


「ここはオイラの出番かな」

 と、胸を張る。


「妙案でも?」

 問えば、


「この体を活かして潜入してみようと思うんだけど」

 エマエスを追跡し、見張りも経験しているから自分がスニーキングミッションをやると買って出てくれる。


「難しいだろうな。素人の追跡と見張りとは違う。製造所の連中、間違いなく手練れだ」


「ほう、そんなにか」


「ここの面子なら問題はない。問題はないが面倒だ」


「手間取るような騒ぎは起こしたくねえよな」


「そういうこと」

 ――ふむん。どう攻略するか……。


「皆さんして考え事ですかな?」

 聞き覚えのある声。

 振り返るよりも速く、


「なんだ爺さん」

 ガリオンの恫喝。


「強い目をお持ちの方だ」

 まったく効果なしで笑顔で対応してくるのは、


「貴男は」


「なんだオルト。知っているのか?」


「製造所で俺の二つ後ろにいたご老公」


「この年齢になると、並ぶのも一苦労でしたよ」

 職員とのやり取りからして、並ばなくてもいいようだったけどね。


「それで、なんの御用でしょうか? ご老公」


「なにかお困りのようでしたので」


「何かしらの知恵でも授けてくれるのか。爺さん?」

 やおら立ち上がり、老公を見下ろす筋肉ヤクザ。


「おい、ガリオン」


「オルト。いきなり話しかけてきた爺さんだぞ。名乗りもしねえのを用心もせずに懐に飛び込ませるつもりか?」


「正論。名乗るのが遅れて申し訳ない」

 ガリオンの圧を受けても柔らかな物腰に変化のない老公の胆力。

 ただもんじゃねえな。 


「システトル・モル・ムートンと申します」


「ムートン!? ムートンとはレリリオラのムートン家でしょうか」

 名を耳にすれば、ルーフェンスさんの声に緊張が混じる。


「そのムートン家で間違いないですよ」


「これは!」

 深々と頭をさげるルーフェンスさんの姿にただ事ではないと思ったので、パーティーを代表して俺が頭を下げる。

 と、同時に馴染んでいないレザーヘルムがゴトリと床に落ちる。


「はっはっは」

 余裕ある快活な笑い声が相対するほうから返ってくる。

 製造所でも同様の笑い声だったな。


「それでムートン家ってのは?」

 ソファにドカリと大股開いて座るガリオンが問えば、


「このロイル領における最大の豪商です」


「貴族じゃないが大商人様ともなれば、腰も低くなるってわけか。権力側ってのは金銭に弱いからな」

 ガリオンの言い様に苦笑いのルーフェンスさん。

 

 次には、


「いぎぃ!?」

 大股開いて座っているガリオンが脛を抱えて床に転がるという図。

 ベルからの修正が入りました。

 権力側とか余計な事を口にするから蹴られるんだよ。馬鹿野郎が!

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