PHASE-299【鬼神と死神(幻影)】
へへ、いつの間にやらアバカンコールも完全に鳴りを潜めちまった。
俺の固有結界である
結局はベルの圧勝という空気が支配し始めている……。
だが終われない! ここで終われば以前と同じ。成長が見られないじゃないか。
確かに四肢は封じられたが、それでも手首は動かせる。
見せてやる!
「遠坂 亨、意地の爪を!」
格好良く言っているが、実際は、ただジタバタして手首を振るってだけなんだけどね。
「大人しくしろ! 往生際の悪い」
「往生際が悪いからこそ勝利の可能性も出るのだ!」
絞められた首元でなんとか声を張り上げるも、自分でも勝利は無いと理解はしている。
強がりの負け惜しみだ。でも意地は見せたい。
懸命になって手首の上下運動。
動かしていれば――、
「はぁ!?」
ベルの素っ頓狂な声。
声の理由は俺の意地の爪だった。
マントに突っ込んだ俺の爪は、バニースーツの胸部分に触れる。
猛禽の如き俺の爪が見舞われ、獲物を捕らえたわけだ。
バニースーツの下は、簡単にまろび出そうだったお胸様。
爪がスーツに引っかかり、後は下に簡単に動かしただけで見事に胸が出たわけだね。
意地の爪だの、猛禽だのと格好つけてるけども、ただの偶然。
「おまえ゛!」
ベルの声が裏返る。
ゴロ太とのファーストコンタクト時でも、こんな声は上げたことがない。
裏返った声と同時に、俺は解放される。
首元を絞めていた手で、ベルは胸元を隠しているようだ。
残念ながらマントの存在が邪魔をして、その奥側の神秘を拝見することは出来なかった。
ギルド内で、マント禁止例を出したい思いが湧き上がってくる。
だが、俺のこの意地の爪には、確かに柔らかくて弾力のある感触が伝わった。
「フォォォォォォォォォォ!」
自然と雄叫びを上げてしまう。
「「「「フォォォォォォォォォォォォ!!!!」」」」
続いて野郎達も雄叫びを上げた。
これまた王都全体に響くような咆哮。
先ほどまでお通夜ムードとばかりに静まりかえっていたのが嘘のように、野郎達が吠える。
野郎達からだって見えてはいないだろう。
だが、ベルの恥じらう仕草から、マントの奥で何が起こっているのかというのは理解できたようで、恥じらう姿と、マント奥の妄想で大層に喜んでいた。
「流石です会頭!」
一人が俺に称賛を送るので、俺は拇指を立ててのサムズアップで返す。
野郎達の思いは俺と一緒とばかりに、全方位から俺に向けてのサムズアップ。
無論、女性陣はそれを冷ややかな目で見るわけだ。
それすら気にしないくらいに、俺たち男は興奮したんだ。
そう、この時までは……。
興奮のあまり、
ベルが恥じらいの仕草を止める。
つまりは、ずれたスーツを戻すのが完了したわけだ…。
それに気付いた時には……、
「へぶ!?」
腹に突き刺さる強烈なボディに、俺は容易くくの字を描く。
タフネスなんてやはり発動してなかったんだとばかりの衝撃貫通攻撃に、胃がひっくり返り、オロロロロロロ――――と、胃液をまき散らしそうになる……。
なんとか耐えて、戻さずにすんだ。
やっぱり朝食を取らないで良かったという安心感と共に、くの字から体をそのまま丸めようとする防衛本能が発動する。
が、それを許してはくれない。
髪をむんずと掴まれて、無理矢理に直立の姿勢にさせられる。
起こされた先では、美人様には鬼神でも宿ったのか、雷光や炎とは次元が違うものを宿らせた瞳があった。
そんな瞳に凝視される俺……。
形容しがたいが、単純に感じるのは……、死…………。
大気が震えているのか、それとも俺が震えているのか、もしかしたら両方なのかもしれない……。
はっきりとは分からないが、分かることもある。
俺の首には、死神が手にするでっかい鎌がピタリと当てられてるって事だ。
セラみたいなヒエラルキーの低い死神とは違う。
死を顕現させたような白骨からなる存在が、闇よりも黒いローブで全身を覆い隠し、凍てつくようなオーラを纏った、死神然たる死神だ。
俺には死神がはっきりと見えた……。
ような気がした……。
死を与える鬼神に呼ばれた死神は、俺の魂を持っていこうとしているのだろうか……。
俺に残された手段は……、
「……ごめんなさい…………」
覗きがばれた時のゲッコーさんを手本として、素直に真摯に謝るルートだけしか残されていない。
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