PHASE-1121【こぢんまり】
一応の用心を考えれば二人の言い分は正しいけども、
「わざわざ隠れて俺達に会いに来てくれていますからね。もし敵対するなら発見した時点で周囲に知らせるでしょう」
「ですがおかしいでしょう。なぜ我々が身を潜めていた場所を発見できたのです?」
と、これはリンファさんの発言が正しい。
ちらりと見ればルマリアさんは別段、取り乱すこともなく、
「それはですね――そちらのハイエルフ様が目立ったので」
言い出しっぺのリンファさんに手を向けてそう発言。
ゲッコーさん、シャルナと共に行動していたリンファさんだったが、二人と比べると移動が目立ったようで、そこをたまたま目にしたということだった。
「たまたまとは何とも都合がよいですね。ずっと後をつけていたのでは?」
「いや、それはない」
ゲッコーさんが断言。
ここにいる俺を含めた者達が気付くことがなかったルマリアさんの動きを察知していたんだからな。
追跡していたとするなら、ゲッコーさんはその時点でルマリアさんを察知していたはずである。
そのゲッコーさんが断言するのだから、間違いなく偶発的にリンファさんを発見したと考えていいだろう。
この状況だと出来すぎだけどね。
「申し上げにくいのですが……あまりにも動きが目立っていましたので」
ハイエルフという事もあってか、リンファさんに恐る恐ると発言するルマリアさん。
「……あの……。そんなにも目立っていたのでしょうか?」
「はい……。そちらのお二人から少し離れた場所での動きが……」
「そう……ですか……」
なんとも恥ずかしそうにリンファさんはうつむきながら返し、
「まあいいじゃない。敵対している者たちじゃなかったわけだし」
シャルナがフォローすれば、
「そ、その通りですよ」
ルマリアさんもフォローを入れていた。
それが余計に恥ずかしかったのか、リンファさんは伏せていた顔を両手で覆い隠してしゃがみ込む。
顔は隠すが、隠すことが出来ない長い耳は力なく項垂れて赤く染まっていた。
なんか可愛かった。
「あの……。案内の方に移行してもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ」
俺がルマリアさんに返すと、同時にリンファさんも弱々しく手を向けてのどうぞのジェスチャーで返えす。
本当に可愛かった。
――周囲を警戒しつつ、物音を立てない移動。
その移動を開始して直ぐだった。
「あの――ここですか?」
「はい」
立哨やミストウルフたちが警戒していた大きな建物の奥側にひっそりと立っている建物に案内される。
茅葺き屋根の高床式の建物はこぢんまりとしたもの。
前方にある大きな建物の蔵の役割をしている建物なのだろうか。
「こちらからお上りください」
ルマリアさんの指示に従って階段を上っていく。
ギシギシと軋み音が耳朶に届く中、階段を上っていけば――、上りきったところを見計らったかのように、目の前の木造扉がこれまた軋み音を立てながら開いていく。
建て付けはよろしくないようだな。
と、これまた知った顔。
「アルテリミーアさん」
「トール様。よくぞおいでくださいました」
ルマリアさん同様に深々と一礼をしてくれる。
扉向こうの建物の中には他にもダークエルフの女性数人が壁に沿って立っており、俺と目が合えばそれが合図となって皆さんが一礼してくる。
見事に整った動き。一般人ではないのが分かる。
やはり警戒はしておいていいかもな。
「どうぞ」
思っていればアルテリミーアさんからの誘導。
肩越しにゲッコーさんを見れば首肯。
「では、お言葉に甘えて」
周囲を警戒しながらゆっくりと建物内へと第一歩。
やはり軋み音。
ここまでくると鶯張りなのかな? とすら思えてくる。
「勇者様」
「おお! ハウ――」
「ハウルーシ!」
俺よりも速くサルタナが発する。
とても嬉々とした声だった。
直ぐさま大声を出したことを申し訳なさそうにしていたけど、周囲のダークエルフの美人さん達は余裕の笑みで返していた。
笑みを受けて安堵したサルタナはハウルーシ君へと駆け出せば、ハウルーシ君も駆け出す。
双方とも再会できたことがよほど嬉しかったのか、しっかりとお互いの手を握り合って笑顔を絶やさなかった。
俺としてはここへの招き入れに対して警戒と緊張もあったけど、微笑ましい二人の友情を見ればソレも和らぐというものだ。
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