PHASE-1122【これは何とも愛らしい】
「それでサルタナ。どうしてここに?」
「僕が師匠の案内役だったから」
「師匠?」
「そう。僕、トール様に弟子入りしたんだ」
「それは凄い!」
ハウルーシ君が驚きながら発せば、サルタナは得意げに胸を張る。
腰に差したミスリルのショートソードと、佩いた木剣を誇らしく見せていた。
「こら」
ここで拳骨。
そうやって見せびらかすモノではないと注意し、加えて自分たちは忍びながらの移動だったのだから大声を出すなとも注意。
室内の女性陣は先ほど同様、笑みで返してくれたけど、騒がしくするのにも限度があるからな。
頭をさすりつつぺこりと頭を下げて謝罪するも、反省よりも親友との出会いがやはり嬉しくて仕方ないようで、笑顔は消えなかった。
二人のやり取りを見ている間に全員がお邪魔する。
エルダースケルトンの二体が入室した時には、壁に沿って立つダークエルフの美人さん達も流石に驚いていた。
俺が大丈夫ですと伝える事でわずかなざわめきも収拾する。
「お連れいたしました」
ざわめきがなくなったのを見計らったところでアルテリミーアさんが発せば、
「ご苦労様でした」
と、続く声は部屋の中央からのもの。
蔵かと思っていれば、
明らかにこの狭苦しい部屋とミスマッチなので、急遽この小さな室内に設けられた御簾だというのはインテリアセンスが皆無な俺でも分かるというもの。
眼前の御簾の奥側では小柄な体がちょこんと座っている。
座高からしてサルタナ達と変わらないくらいだろう。
「敵対する意思は見受けられませんが、なぜここに我々を?」
念には念を入れて身構えつつ、薄暗い部屋の中を見渡す。
ここには女性だけしかいないと思っていたけど、よくよく見ればハウルーシ君と同じような子供たちも数人いる。
皆、行儀よく座っていた。
「今回のダークエルフ達の行動、皆が皆、賛同しているわけではないんです」
御簾の奥からの声は姿同様にまだ幼い。
正直、声だけだと男の子なのか女の子なのか判断は難しいところ。
「その発言を信じるならば、こちらに対して敵意はないとみて良いのかな? 欲を言えば味方と判断しても?」
「もちろんです」
ゲッコーさんの質問に御簾の奥からは明るい声で即答が返ってくる。
「じゃあここにいる皆さんはその御簾の奥にいらっしゃる方の賛同者ということですか?」
俺の質問に、壁に沿って立つ皆さんはしっかりとした首肯で返してくる。
微笑みを加えての返しに俺の動悸は高まる。
女性陣は皆さん魅力ある美人さんだったからね。仕方ないね。
「ここにいる皆さんは私の侍女ですから。常に私を支えてくださっています」
「そうですか」
――侍女ね。
侍女って時点で目の前の人物はお偉いさんか。
ウーマンヤールというエルフ社会の階級では最も低い地位だけども、御簾の向こう側の人物からはそんなことを感じさせない雰囲気が漂ってくる。
落ち着きのある喋り方はやんごとなき立場の人物を思わせる。
「よろしければ、その御簾を上げることは可能ですか?」
「これは失礼いたしました。こちらから招待しておいて素顔を見せないとは礼儀を欠いておりました。勇者様」
「いえいえ」
即答で応じてくれるね。
両サイドに立つ侍女さん達が紐を引けばゆっくりと御簾が上がっていき、キノコのクッションに座っていた人物が姿を見せてくれる。
「ほぉ~」
間違いなくやんごとなき人物だな。
見ただけで分かる。
品があって何とも愛らしい――少女だった。
褐色の肌に銀色の髪、紫色の瞳。
ダークエルフ然とした見た目。
やはりこの国での流行色なのか、服装は薄緑のワンピース。
座る姿は西洋人形のようだった。
人形と違って肌つや血色ともに健康的。
「初めまして勇者様。ルリエール・シャクナリスと申します。このゲド集落にて族長を務めております」
やんごとなき存在だとは思っていたけど、長だったか。
丁寧な自己紹介を行えば俺の元へと駆け寄ってくる。
そして深々と典雅な一礼をし、姿勢を戻したところで、
「ルマリアとアルテリミーアを救ってくださり感謝いたします」
「当然のことをしたまでです」
救った側の決まり文句にて返す。
「流石は勇者様ですね。殿下の恩人なだけはあります。それに二人から聞きました。殿下の剣の師にもなったそうで」
「ええ」
返せばキャッキャとテンションが上がるルリエール族長。
まるで自分の事のように喜んでいた。
じっと見ていればはたとなり、
「う、ううん――。失礼しました。恥ずかしげもなく大いにはしゃいでしまいました」
照れくさそうに笑顔で誤魔化してくるルリエール族長のその笑みは、天使と見紛うばかりの愛らしさである。
これはリズベッド級の尊い存在ですな。
この天使級の笑顔を持つ女の子が族長ってことは、この集落で一番のお偉いさんという事になる。
てっきりこの建物の前にある屋敷の方で、エリスやカゲストなんかと一緒にいるのかと思っていたけど、まさかこんな狭苦しいところにいるとはね。
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