PHASE-762【協力がありがたい】

「随分と動物に愛されているようだな」


「高順――氏!?」

 先ほどまでは自分の足で立っていたけども、今は馬上――ならぬ、狼上の人になっている。


「こいつがワーグってやつですね」


「ああ。馬のように速く、持久力もある。それに馬と違って攻撃にも特化していて中々にいい」

 漆黒の毛並みは高順氏の白銀の鎧と赤いマントを目立たせる。

 魔王軍の侵攻時。要塞から打って出た高順氏たちが勝利したことで魔王軍が置いていった物資を手に入れたということだったけど、ワーグもしっかりと調教がすんでいるようで、とても大人しい。


 魔王軍で飼われている時はきっと獰猛で、人間なんて餌くらいにしか見てなかったであろう馬サイズの狼も、【騎兵調練】というスキルのお陰なのか、それとも高順氏の武人としての威光にひれ伏したのかは分からないけども、随分と懐いているし、目が怖いって感じはしない。

 チコ同様に、主を見る時はまん丸お目々って感じで愛らしい。

 にしても三国志の二人は、作品的に馬が似合っているんだろうけど、一人は空飛んでるし、一人はデッカい狼。

 ――……ファンタジーを堪能しているな。


「いまだ力を見せていないからな。我が力を披露したいところだ」


「見なくても強いってのは理解してますけど、頼らせてもらいます」

 語り合えば高順氏は征東騎士団の隊列へと戻っていく。そしてその隊列の隣には異彩を放つメイド服の集団。

 ランシェルを始めコトネさん達もそろい踏み。

 サキュバスとインキュバス+1のメイドさん達が百余名、この戦いに参加してくれる。

 リズベッドの守りはガルム氏やアルスン翁たちに任せ、王城にてプリシュカ姫と俺たちの帰りを待つといったところ。

 念のためにリズベッドとプリシュカ姫の護衛には、S級さんを十人配置。

 王様にメイドさん達は後顧の憂いなく北伐へと赴けるだろう。

 S級さん十人を割くのは大幅な戦力減ではあるけど、後方である王都の守備も大事だからね。

 バランド地方に三十人。王都に十人。

 北伐には六十人のS級さんが参加。

 単純にゲッコーさんが六十人。問題なく無敵だ。


 ――……ま、しつこいようだけど、あれはいいとして……。


 うん。負ける気がしない。


「――――では出陣!」

 参加する皆さんを鼓舞していた王様からの命令一下。

 抜き身になった白刃が向けられるのは当然――北。

 先ほど以上の大気を震わせる鬨の声と共に進軍が始まる。

 声が大気を震わせるなら、進軍は大地を震わせる。正にララパルーザ。


「スゲーな。これが万単位の規模での行軍か」

 北門と木壁の間では王都に住まう方々が俺たちを送り出してくれる。

 女性陣や子供たちが戦いに向かう者達に対して笑顔だ。

 淋しい表情を見せないのは、俺たちを元気づけるためのものでもあるんだろうね。

 いやはや本当に、この王都の人々は皆が皆、立派だよ。

 これも先生のユニークスキルである【王佐の才】が影響しているんだろうけど、個人の地力によるものでもあると俺は信じたいね。


 ――――王様たちと轡を並べる位置にいる俺たちは先頭の位置。

 ちょっと横に移動して背後を見れば長く続く隊列。


「これだけの規模となるとやっぱり輜重隊も凄いな」

 兵糧に予備の武器やテントなどを幌馬車に積んだ輜重隊だけでもかなりの隊列だ。


「輜重隊にはギルドから、コボルト達が協力のために参加してくれている」


「そうなんだ」

 ベルが自慢げ。

 自分の麾下にしたコボルト達が頑張ってくれるわけだから、そうなるのも仕方ない。

 戦闘要員としては活躍は出来ないけども、少しでも皆さんのためにと買って出てくれたそうだ。

 有りがたいぞ。流石は俺のギルドメンバー。自慢のメンバー達だ。


 さらに有りがたいのは、幌馬車の数。

 ちょっと前まで半壊していた王都にこれだけの幌馬車が有るわけがない。

 復興して馬車を生産可能になったとしても多すぎる。

 

 多い理由は、旅商人達が普段から利用している幌馬車や馬車を提供してくれたからだ。

 復興してきた王都でこれからも稼がせてもらいたいからという、商人だから言える粋な台詞で提供してくれたそうだ。


 王都だけでなく周辺の方々の力が正に一つになっている。

 これこそが俺たちが望む人々の姿だ。

 一丸となって困難に立ち向かう。

 

 だというのに、空気も読めない馬鹿息子はその足並みを乱してくるからね。

 なのでキツいのをぶち込んでやらないといけない。

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