PHASE-761【やめて! 俺の為に争わないで!!】

「さあ――」


「参りましょうか!」

 久しぶりに俺が言いたいことを横からかっさらったなコクリコ。

 朝日が降り注ぐなか、開かれた北門にて隊伍が組まれれば、出陣の一つ手前の戦意高揚の時間。

 王様の北伐の声に合わせて、大気を大いに震わせる鬨の声が上がる。

 王様や家臣団と轡を並べるために、久しぶりのダイフクに騎乗。

 コクリコやシャルナは馬車に乗って俺の横。

 ベルは王都で使用する時の黒馬。

 ゲッコーさんも珍しく馬上の人になる。


 ――……ま、あれはいいとして……。


「で――」


「今回は私も陣営に参加します」

 先生も参加するわけだ。

 俺に語りかければ先生は空を舞う。

 戦いとなると――、王都防衛でのホブゴブリンの軍勢と戦った時以来だったかな?

 前線での戦闘要員と指揮をベルにゲッコーさん。そして後方では先生が全体の指示。

 なにこの戦術と戦略の完璧超人そろい踏みは。

 負ける気はそもそもないけども、更にしない。

 でもって更に安心感を与えてくれるのは、俺の斜め後ろに位置する白銀の鎧の高順氏。

 現在はまだ騎乗せず、隊伍を見渡しているようだ。

 前日はゴロ太たちとの時間を堪能し、その後の侯爵や先生との話し合いは円滑に進んだようで、高順氏の後方に征東騎士団団長のイリーという配置。

 端から見てもイリーが副将と分かる位置だ。

 高順氏の実力に信頼を持ったようで、征東騎士団は一時的だけど高順氏の指揮下に置かれることになった。

 これで騎兵には高順氏のバフがかかる。

 

 空を見上げれば侯爵の竜騎兵が駆るワイバーンと、先生のヒッポグリフによるラフベリーサークル。

 先生が借りパクしているスピットワイバーンは、騎乗者無しでヒッポグリフの横を飛んでいる。二頭の仲はよさげ。

 

 更に後列を見れば、王兵たちに混ざってギルドメンバーも実力者達が揃っている。

 カイルにクラックリック。ギムロンの横にはタチアナも参加してくれているな。

 その側にはタチアナとパーティーを組むようになったライとクオンもいる。装備がよくなっているね。

 更にその横では、歴戦の貫禄を漂わせながら得物のメイスを見つめるドッセン・バーグ。

 守備以外を除けば、王都の殆どを出し切っているって感じがする。

 ラルゴ達もいるしな。

 北伐と聞けばどうしても従者に入れてくれと願い出てきたからな。

 北から流れてきた者達が多いという事だったし、ラルゴもそうだからな。

 北――つまりは公爵や馬鹿息子の内政に苦しめられた者達って事かもしれない。


 復讐心を力に変えるのも主の為になるなら悪くないということで、先生からは百人を超える砦群を根城にしていた賊達に駆け出し用の装備を提供。

 生産性重視の数打ちの槍と剣に、盾とレザー系の防具。

 今までの格好からすれば立派な姿。というか生産性重視でもドワーフが中心になって作った装備品はやはり立派。

 駆け出し用だけども、装備は全てが統一されているから冒険者装備というよりは、兵士の装備だな。

 

 全ての面々に共通するのは、力をしっかりと宿した目。


 ――……ま、あれは本当にいいとして……。


「に゛ぁぁぁぁぁあ」


「おう。チコにも期待してるぞ」

 象ほどの大きさであるチコの喉をさすれば、デカいゴロゴロ音が聞こえてくる。


「にしても――、馬甲のような防具だな」


「凄いじゃろう。会頭のペットとなれば品格も大事だからの。腕達者の職人達を集めて作ってやったぞ」

 後列からやって来たのはギムロン。誇らしそうに灰色の顎髭をしごく。

 チコの体――胴回りや首、頭部がしっかりと小札の金属鎧で守られている。

 頭部は兜というより鉢金のようなデザイン。

 そして最も目を引くのは――、蛇腹剣のような尻尾。

 俺がぶった切った蠍のような尻尾には金属からなる尻尾が途中から生えているようだ。

 蛇腹の尻尾は、後ろ足部分の小札鎧によって固定されている。


「なんか強そうじゃないか」


「いやいや、実際に強くなっているはずじゃぞ」

 ギムロン曰く、チコの身体能力を落とすことのないように、重鎧は却下しつつも軽くて頑丈に仕立て上げたという。

 元々の先端から毒液を出すという攻撃は無くなってしまったが、物理攻撃という観点では今まで以上に強力な攻撃手段となった尻尾。


「このマンティコアを駆って戦えば、会頭の威光は更に大きなものになるぞ」

 このギムロンの発言は良くなかった。

 人語が理解できるのはどうやらチコだけではなくダイフクもだったようだ。

 ダイフクが突如として後ろ足でチコをゲシリと蹴る。


「やめないかダイフク」

 先達者である自分を差し置いて、後からしゃしゃり出ないでくれる。とばかりに、ブルルと威圧感を出すように鼻で鳴く。


「に゛ぁぁぁぁぁあぁぁ!」

 ああん! だテメー! みたいな感じだろうか。

 ダイフクとチコの間でバチバチと火花がぶつかるのを幻視する。

 先生のとこのヒッポグリフとスピットワイバーンみたいに仲良くしてほしいよ。

 

 ふぅ……、どうせなら動物に取り合いをされるんじゃなくて、美人たちに両腕を引っ張られて取り合いをされたいもんだよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る