PHASE-1462【直訳は醜い脚】

 サーバントストーンを足場にして、落下からの難を逃れるという離れ業を見せてくれたコクリコ。


「今はこれが精一杯ってことだからな。極めれば凄いことになりそうだ」


「レビテーションのように縦横無尽に飛翔し、フロートのように地面を滑るような高速移動を近いうちにご覧に入れましょう」


「そいつは楽しみだ」

 近いうちって言ってくるところに、操術向上への意欲が伝わってくる。

 二人して笑っていれば、


「安心するのはまだ早いよ」

 ここで無理矢理に包囲を突破してきたシャルナが俺達と合流。

 それに合わせるように、相手からの矢と魔法の攻撃。


「おっしゃ! 先に進ませてもらおう!」

 包囲されるのはごめんなので、急いで屋根付きの通路内へと駆け込む。

 ご丁寧にシャルナがプロテクションを二重に展開し、通路出入り口を塞いでくれた。

 さっきボドキンで貫いたモノとは段違いの堅牢さ。追撃しようとしてくる連中の力じゃ破壊は難しいことだろう。

 

 ――。


「やれやれ、これで一安心だな」


「ですね」

 アンチドーテの効果が全身に行き届いたようで、コクリコの声に張りが戻っている。


「まったく。危ないところだったよ」

 と、ミルモンも健康そのもの。

 ようやく一息つけると、俺の左肩に戻って背伸びをすれば、羽と尻尾もピンッと伸ばしていた。


「一息つくのはいいけど、ここは敵拠点だからね~」

 突如として現れるオムニガル。

 天井の壁から上半身だけをにゅっと出してくるところがゴーストタイプ然としている。


「その便利な能力でこの通路から上に続くところを見つけてくれよ」


「いいよ~」

 戦闘はともかく、探索は協力的だな。

 早いところ上に進みたいから協力してくれるのは有り難い。

 この位置だと落下すればお陀仏だからな。

 上層に移動できれば落下しても下段に着地できるという保険が利くからな。それだけでも安心感が大いに増す。

 もっと欲を言うならば、下半円の中央部分まで移動できれば、落下の恐れがなくなるから手早く中心地へと向かいたい。

 

 ――疲労回復のためのポーションを皆で飲みつつ、今現在の場所を確認。

 リンから蹴り落とされて焦っていたから、着地地点以外を見る事が出来なかったので、合流してくれたシャルナとコクリコから詳しく聞けば、現在の位置は要塞の外周も外周だった。

 下半円の外側にある回廊のような造りからなる場所に俺達は立っているそうだ。


「回廊のような造りなら、考えもなく進めば外周をグルグルと周回するだけになるな。中央に続く分かれ道をまずは探さないとな」


「とりあえずは進みながら考えましょう」


「だな」

 十全になったコクリコはワンドを振りつつ俺へと返し、先頭にて歩きだそうとするので、直ぐさま俺が前に立つ。


「なんです? 私が前でも良いのですよ」

 アドンとサムソンの使用方法に新たなる可能性を見いだした事で気が大きくなっているようだな。

 俺も単独で飛行できるようになりたいね~。

 せっかくマントを羽織ってんだからな。

 ヒーローみたいにマントを靡かせて飛行したいもんだ。


 と、現状、出来ない事はさておき、


「コクリコを後衛扱いにするのは随分と前から諦めている。今回の理由は方向音痴の疑いからだ。だから俺が先頭で」


「ぬぅ。この私にそんな疑いなどありませんよ」

 ――……。


「なぜ皆して静まり返るのです」


「真実だからじゃないかな? 皆して可哀想だと哀れんでいるんだよ」


「さっきは何もせずにいたゴーストが生意気な! ここで成仏させますよ!」

 琥珀の瞳をぎらつかせれば、オムニガルは早々に撤退。

 

 ――撤退――じゃない!


「コラコラ消えるんじゃない。戻って来たって事は、ここより上にいける場所があったんだよね?」

 問えば、


「そうだよ」

 と、声だけが短く返ってくる。


「では道案内をしなさい」


「は~い」

 なんだかんだでコクリコの言うことを聞いてくれる辺り、オムニガルはコクリコの事を気に入っているんだろうな。


「道案内ならオイラでも出来るけどね」


「いやいや、ミルモンの力はもしもの時だからな。とりあえずは足場の安定しているところまで移動して、ベル達と合流してから考えよう」

 翼幻王ジズがどの場所にいるか。

 中央の城だと予想しているけど、掴み所がないというトリッキーな性格なら、居そうな所に居ないってのもありえる。


「まずはオムニガルの誘導で上層に移動しよう。出来る限りこの通路内でエンカウントしないようにお願いするよ」


「その辺は問題ないよ」

 それは有り難い。

 通路を破壊されて即落下なんていやだからな。

 とにかく安全に上を目指そう。


 ――。


 オムニガルの声に従って上層へと続く階段を上がっていく。

 階段を一歩一歩上がる度に、即落下という文字が脳内から薄まっていく幸せ。

 

 そんな幸福感の中で、


「分かりました」

 ゲッコーさんと連絡を取り合う。


『最初は慌てていたが今は落ち着いている。連中、すでに深くまで潜り込まれている可能性もあると判断して、各出入り口周辺の守りを固めている』


「潜入活動に支障が出そうですかね?」


『おいおい、俺を誰だと思っているんだ』


「愚問でしたね」

 潜入の神様に不可能はないということだな。


『気を付けろよ。今までの連中とは違うのが出てきそうだ』


「それは嫌ですね」


『ああ。連中、フッケバインを出すぞ――なんて言ってるからな』


「フッケバインですか。名前からしてやばそうですね」


『だろ』

 中二心をくすぐる名前としては有名どころだからな。

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