PHASE-1328【TAKE2願う】

「では自分たちが搦手ということですね」


「そういう事。コルレオンとタチアナは、今から俺が出すモノを使用して、こちらが派手に動いている時にシャルナと一緒に潜入して、何処でもいいからコイツの設置作業に励んでくれ。出来るだけ一つ一つを離れた位置に設置してほしい」

 敵の目が多い場合は、無理せず近場での設置でもいいと伝えれば、


「必ず最高の結果をもたらします」

 と、タチアナから力強い返事をもらい、コルレオンもそれに続いてくれる。


「シャルナ、潜入での先導役よろしく」


『お任せ。でもそっちは回復魔法担当がいないけどいいのかな? 戦闘の中心になるのに』


「自分が励みますので」

 背嚢と雑嚢から直ぐにポーションを取り出して回復をすると、涙目のパロンズ氏が応えてくれる。

 

 ――。


 二手に分かれたところで俺達も目の前の拠点へと足を進め、一定の距離で足を止める。

 防御壁の物見櫓からは一応の誰何がこちらへと届くが、


「ミルモン。搦手が自由に動けるようにド派手にやろうな」

 と、それを無視しつつ左肩の小悪魔に語りかけると、


「お任せさ!」

 ミスリルコーティングされたサーベルを引き抜き、大立ち回りしてやると意気込む。

 そんなやり取りの中で、


「では始めましょうか。開戦の戦鼓はこの私が担当しましょう!」

 ワンドの貴石が赤色に輝く。

 周囲は今までと違って木々が少ない。そして目標は土の防御壁なので問題ないと判断した俺が首肯で許可を出す。

 相手は使用し、自分は使えなかったという抑制からの解放もあるのか、赤色へと変わった貴石は赫々としたものであった。

 

 ド派手を体現させるように威力を上げるためにと、青色のタリスマンが埋め込まれた左手首のブレスレットであるオスカーと、緑色のタリスマンが埋め込まれた右足首のアンクレットであるミッターの装身具も煌々と輝く。


 更に――、


「アドン、サムソン」

 と、腰のミスリル製の箱からは、主の声に反応して飛び出てくる黒色の球体からなるアドンと、白色の球体からなるサムソン。

 二つのサーバントストーンを自分の周囲に留めて準備万端。

 後は抑制されていたお得意の魔法名を発するだけ――。


「ファイヤーボール!!」

 

「おお!?」

 なんともコクリコらしくないバランスボールサイズの大きな火球が顕現。

 しかも三つ。

 装身具により魔力強化され、加えてサーバントストーンによる同等の火力を生み出すという能力。


「くらうがいい!」

 大きな三つの火球は、コクリコの声に従うようにして、五メートルを超える土で築かれた防御壁へと勢いよく飛んでいき、着弾と同時にとてつもない爆発音にて大気を揺らし、俺は感じないが、パロンズ氏とミルモンは「「熱い……」」と呟き、爆発により拡散する熱風で顔を歪めていた。


 当の本人は全くもって気にしていないのか、不動の姿を俺達に見せてくる。

 黄色と黒の二色からなるローブを激しく靡かせている背中を見つめていれば、


「他愛ない壁ですね」

 強者感を纏わせるガイナ立ちへと姿勢を変えているところに移動して、表情を覗き込めば、得意のファイヤーボールを放つことが出来てご満悦とばかりにホクホクの笑顔。


「は、破城槌いらずですな……」

 熱風を払うように両手を忙しなく動かすパロンズ氏は、眼界で捉えた高火力に声を震わせていた。

 矢などには堅牢さを誇るのだろうけど、こういった高火力の魔法となれば、土の防御壁程度では防ぐ事は難しかったようだな。

 三つの火球による同位置、同時着弾によって壁に巨大な穴が出来る――のではなく、着弾部分の壁は完全に消え去っていた。


「では、この爆発音を鬨の声として行きましょうか! お三方」


「気分上々だな」

 快活なコクリコとは違い、壁の向こう側は混乱に陥っているような声が上がっており、シャルナからは伏せていた兵が一斉にそちらへと向かっているという報告が耳朶へと届く。

 で、一番槍としてコクリコが駆け出し、壁に沿って立っている物見櫓へと再びファイヤーボールを放つことでそこにいる者達ごと破壊。


 弓矢による脅威がなくなったところで、


「はいぃぃぃぃぃ!」

 濛々と上がる土煙など意にも介さず、自らが破壊した壁から突入し、壁側にいる敵兵へと目がけてフライパンを容赦なく兜で装備された頭部へと打ち込んでいく。

 いやはや、五百はいるであろう軍勢に対して、まるで一人でも問題ないという立ち回りだよ……。

 一騎当千とは言っていたけども、本当にそれを実行しようとしているようだな……。

 しかも的確なのが、特に混乱しているヤツに狙いを定めて攻撃するという状況判断能力の高さだ。正に前衛職の手本となるような動きだ。


 数人を瞬く間に地面に転がし、次の標的にはハイキック。

 蹴りで傾いた体に向かって跳躍し、フライパンを振り下ろすという追撃。


 そいつが地面に倒れたところで、


「やあやあ我こそは、王都は北東に位置するモルド村が出自、コクリコ・シュレンテッドなり! 我が偉大なる魔力と武に恐れを持たぬ者よ、自信あらば尋常に勝負といきましょう!」

 と、ダークエルフの集落にて俺がおこなった名乗りの話を王都に戻ってからゲッコーさんから聞いたそうで、これにとても興味を持ったらしく、こういった場面に直面した時に必ず実行しようと練習をしていたということだった……。


「なんと気持ちのいいことでしょう!」

 威風堂々たる佇まいによる名乗りと登場。

 混乱している連中がコクリコの言動により一歩後退すれば、それを目にするコクリコは更に悦に入っている。

 で、肩越しに俺を見てくる表情は満足げ。


 だがしかし――、


「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! ってのが最初に入っていたらもっと良かったんじゃないかな」

 と、指摘をしてやれば、


「…………ああ!? しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! 逸り気のあまりその部分が欠落してしまいました! 痛恨! 痛恨なりぃぃぃぃぃぃい!」

 敵が目の前にいるってのに、自分の名乗りを失敗した事の方が問題なのか、頭を抱えて失敗したことに大いにヘコんでいた……。


 名乗りをする機会があった時のために、欠かさなかった口上練習。

 だからこそ、名乗りの失敗にヘコむコクリコ。

 名乗りを練習するよりも、大魔法を習得して、その発動のための詠唱を覚えてほしいもんだよ……。

 

 ――頭を抱えていたコクリコが姿勢を正して大きく深呼吸をすれば――、


「もう一回やりなおしたいので、今までのはなかった事にしてください。なので我が前でビビり倒している諸君。もう一回、突入からやり直すので、そこで待機しておくように」

 土煙が晴れていく中、相対する者達に真顔でコクリコが伝えると、土煙が晴れていくのと比例するように、混乱が徐々に収束していけば――、


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 と、相対する側から怒号が返ってきた。

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