PHASE-1327【たたら製鉄】
「ふむ――あの白煙」
そう呟いて煙を見続けるパロンズ氏は、
「これは、この地にたたら場を築いているようですな」
「たたら場――ですか?」
「はい」
「そうだと仮定すれば、カクエン達の装備もここで作られているのかもしれませんね」
「間違いないでしょう」
鷹揚に頷けば、継いでパロンズ氏は説明をしてくれる。
たたら場があると判断したのは空に上がる煙の量。
数カ所から上がる煙の色は総じて白煙。
たたら製鉄を稼働させるためには大量の木炭を使用するということで、白煙の下では製鉄時に燃料として使用する木炭を制作していることでしょう。との事だった。
たたら製鉄を行うためには広大な山林も必要なのだという。
故にこの場にいるパロンズ氏に、親方様やギムロンのご先祖様たちがエルウルドの森の側である窟を生活の場とし、アラムロスと名付けてドワーフの国の中心地となったそうだ。
中心地となったのも偏にエルウルドの森からの恵みと、窟にて取れる鉱物があるからこそ。
森からの恵みというのは木材だけでなく、多くの砂鉄も手に入れられるということだった。
「十中八九あの煙はたたら製鉄に必要な木炭制作のための煙でしょう」
この冒険中で一番自信のある声を発するパロンズ氏。
「信じますよ。ここに残った魔王軍が残置兵としての役割を持っていたかまでは分かりませんけども、カクエンへと装備を行き届かせるだけの物資をわざわざ窟を通過してこの森まで運び込むなんて考えられませんからね」
となれば、現地で手に入れるしかないもんな。
「手に入れるにしても、自ら製鉄を行って生産するのには驚きしかないですけども……」
「会頭のお言葉をお借りするなら、わずか一年程度でこの規模。敵ながら大したものです」
たたら場を設計し築き上げる。
この地にいる魔王軍の中には相当な腕っこきがいるとパロンズ氏。
「もしくはこちらの予想を超える人員が投入されているという可能性も……」
不安に染まる声でタチアナが述べれば、側でそれを聞くコルレオンの尻尾も力なく項垂れる。
この人数で大軍相手に大立ち回りってのは、二人からしたら考えられないことだろうからな。
でもそれに近いことをする事にはなるんだけども。
ベルとゲッコーさんがいるとなればなんの問題もないんだけどね。
――うむ。
「どうする。喚ぶ?」
「まだいいですよ」
コクリコからの却下。
自分の活躍の場が奪われるのは嫌なようだ。そういった自分本位の思考に染まっているコクリコを見れば、まだ大丈夫なんだろうなというのが分かる。
本当に危険ならコクリコは自分本位な考えにはならないからな。場数を踏んでいるからこそそういった判断は本物だし。
実際に軍監であるヤヤラッタとの戦いを物差しとすれば、向こう側の強者に対してこの面子なら渡り合えるだけの力はある。
だからこそ、そんな状況下でベル達を喚ぶことになれば、不甲斐ないという理由から蹴りが見舞われる可能性もあるってもんだ。
それに俺も何処まで出来るのかってのも知りたいからな。
二刀を扱えるようになり、ウインドスラッシュにそこから派生させた新たな技も習得した。
だからこそ自分の可能性を信じたいという、コクリコ以上に自分本位な考えを持ってしまう。
「まずはこの面子でいくか!」
「そうこなくては! 五百どころか千以上いても構わないですからね。なにせ一騎当千なので!」
「それはちょっとな……」
何処までも超強気なコクリコが羨ましい。
『兵数はこちらの予想を超えることはないかもだよ』
と、誘導と偵察をしてくれるシャルナから連絡が入る。
こちらを誘導をしながら伏兵の確認だけでなく、配置まで調べてくれているとはね。
短時間で各所に配置されていたのを発見できるシャルナの素晴らしさたるや。
――シャルナが見て回ったのは拠点の外側四分の一ほど。
その範囲内に三人一組の三チーム。合計九人。
残りの四分の三も同数程度の配置と考えれば、三十六人ほど。
それは伏兵でなく見張りなのでは? と、述べれば、シャルナから立哨、歩哨のたぐいではなく、息を殺してじっとその場に身を潜めているということだったので、十中八九、伏兵としてこちらの虚を衝くための部隊だということだった。
――こちらの人数と実力を把握しておいて伏兵はこちらより少ない三人一組という編制。
少数だからこそ伏兵ってのは効果があるのも分かるけども、兵力差は圧倒的に向こう側が上。
それでもそれだけしか伏せれないのは、内側の守りに重点を置くためなのかもしれない。
故に伏せる兵数はそれが限界って事なのだろう。と、つたない推理を述べれば、
「思慮深さが荀彧に近いものになってきているようですね」
「最高の称賛ありがとう。でもコクリコ。呼び捨てはやめてくれ。せめて呼び捨てをするにしても字の文若でお願い」
諱呼びはマジでやめよう。
注意したところで自分のスタイルを貫き通すんだろうけども……。
『で、どう攻める?』
「伏兵の場所はすでに突破してるよね?」
だから拠点を肉眼で見る事が出来る位置まで来ているわけだし。
『問題なく』
と、返ってくる。
だったら伏兵の脅威はないな。
あるとしてもこちらが戦闘に突入する音で気付き、後方から攻めてくるといったところか。
――うん。
「ならば堂々とお邪魔してもいいかもな」
「あの会頭。当初の考えである搦手とは違うような気がしますが……」
「いえあくまで搦手ですよパロンズ氏。向こうの勇将兼知将が、自分を囮にする戦いでミノタウロスのバックアタックを成功させましたからね。俺もそれに対抗させてもらいますよ」
「結局はダークエルフの集落と同様ってことですね」
「その通りだコクリコ。こういった拠点を少数で攻めるとなると、どうしても声東撃西のような作戦になる。あのグレーターデーモン――ヤヤラッタならそれも見越してくるだろうけども、それを困惑させるためにもド派手にやらないとな。搦手のために」
「搦手のためですか。ならば隊を分けるということですね」
そうです。とパロンズ氏に返す。
「トールと行動すると、そのド派手ルートになるのですか?」
「そうなるな」
「では私はトールについていきます」
「派手にやってくれ。俺達に注目が集まるようにな」
「私に注目が集まるようにの間違いですね」
「……おう。あとパロンズ氏も同行お願いします」
「自分がですか」
チラリとコルレオンを見るパロンズ氏。
自分よりもコルレオンの方が戦力になると判断したんだろう。
「マッドゴーレムと一緒に暴れてください」
「分かりました。短い時間の召喚ですが大暴れさせます」
戦力増強を可能とする自分が選ばれたことに納得してくれたパロンズ氏は、やってやる! と声に出し、巌のような掌で自分の頬をバシリッと叩いて気合いを入れてくれる。
気合いが入りすぎて力も入りすぎたのか、涙目になっていた。
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