PHASE-1329【本当にコクリコ?】

 大音声で怒号を吐き出した一人が、コクリコ目がけてロングソードを振り上げ襲いかかってくれば、その横にいた一人が腰にぶら下げていた角笛を吹く。

 重低音が一帯に響き渡る。


「いやいや、これだけ派手に突入してきたのですから、今更、角笛を吹いたところで意味はないでしょうに」

 小馬鹿にしたような言い様で、ロングソードで斬りかかるオークを容易く蹴り倒し、角笛を吹くために面頬を上げ、まる出しとなったオークの顔にフライパンを叩き込む。


「小娘が!」


「といや!」


「ぎゃっ!?」

 小柄ながらもしなやかに伸びる後ろ回し蹴りで、更にお怒りとなった一人を吹っ飛ばす。

 本当、感心するくらいに強いな。コクリコ。

 これだけの剛胆な言動と、それに見合った実力を見せられると、目の前に大軍がいても一切の不安を覚えないよ。

 俺よりも先に安心感を味方に与える存在になりつつあるな。


「これは負けていられない」


「最高の陽動になりましたな」

 ここまで派手に登場し、名乗りに失敗したのでもう一回やり直しと本気で敵対する者達に発せば、最大の挑発行為になるもんな。

 こちらに備えて兜も外さずに待機していた連中は挑発によって、混乱以上に怒りが勝ったようで、その怒りのままに俺達へと迫ってくる。

 やはりというべきか、オーク達だけでなくカクエンもいるのが分かる。

 コクリコを目にした途端に、「今度こそ!」と、発しながらコクリコへと迫っていた。

 数の多さに強気になっているようだな。

 単純なのはこういう時、強いんだよな。

 そんな強気な姿勢を粉々に打ち砕いてやるけども。


「パロンズ氏」


「おまかせを!」

 派手にいこう。

 コクリコ一人でも本当にどうにか出来そうでもあるけど、こっちに四人しかいないことを悟られるのは遅ければ遅いほどいいし、気付かれないならそれ以上にいい。

 俺達から逃げた女大好きのカクエン達がここにいるとなると、シャルナとタチアナがいないことに気付かれる可能性も高いから、さっさと倒したいところ。


「いでよマッドゴーレム!」

 発せば地面が隆起し、二メートルサイズからなる小柄な土のゴーレムが出てくれば、小柄ながらも丸太のような腕を大きく振って、迫ってくる連中を吹き飛ばす。


「こっちもだ。出番の緞帳は上がってるぞ! ゴロ丸!」

 地龍より賜った曲玉で地面を一擦り。


「キュゥゥゥゥゥ――」

 地面が隆起するなどではなく、勢いよく飛び出してくるスタイル。

 ラグビーボールに手足がついたような愛らしいミスリルゴーレムであるゴロ丸の参上!


「す、凄い……」

 青白く輝く全身全てがミスリルであるゴーレムを目にして、パロンズ氏は驚きとドワーフだからなのか、三メートルを超える希少鉱物の塊からなるゴーレムに魅了されているようだった。


「パロンズ。見入ってないで使役に指示!」


「は、はい!」

 コクリコのこの発言にはたとなり、マッドゴーレムを突撃させて大暴れさせる。

 二体のゴーレムの登場に、こちらへと驀地してきた一団の足が止まっているのを目にしつつ、


「ゴロ丸。大暴れしてあげなさい」


「キュウ!」


「こんなのまで出てくるのかよ! 増援を呼べ!」

 んなことしなくても、こちらがこれだけ暴れているんだから、嫌が応にもくるだろうさ。

 思っていれば、コクリコが角笛の件の時のように小馬鹿にして相手に伝えてくれる。

 ゴロ丸に指示を出し、近場の建物を拳一つで破壊させれば、相手は再び混乱のるつぼ。

 特にカクエンの連中が酷いご様子。

 こういう時、訓練が行き届いていない兵達を精兵に組み込むと、当然ながら動きが鈍くなって精兵の力も削がれるわけだ。

 これはこちら側でもそういった事にならないように、兵を鍛えていかないといけないという学びにも繋がる。


 だからこそ、


「とう!」

 そんな穴を見逃すはずがないコクリコがその部分を突いて、フライパンとワンドを見舞っていく。

 アドンとサムソンもその意思に反応するかのようにドカドカと鎧を装備した連中にぶつかっていく。


 ――……うん。魔法を使え……。


 十分に強いからなんとも駄目出しがしづらいってのがあるけど。


「こちらが押していますが、ドンドンとこちらへと向かってきていますね。壁と敵に包囲されてしまっています。更には後方からも声がします。拠点の外側に伏せていた兵がこちらへと来ているようです」

 ゴロ丸の反対側でマッドゴーレムを暴れさせている中、次々と増えていく敵に脅威を覚えるパロンズ氏は気を呑まれそうになっていた。

 

 でもそれを払拭させるように――、


「問題なしですよ。この私がいればね!」

 コクリコがキメ顔で言ってくる。


「すげえ格好いい台詞だな」


「まったくですな。流石はコクリコ殿」


「そうでしょうとも!」

 俺より勇者してる自称ロードウィザード様。

 相手を小馬鹿にしながら戦っているから、オーク達のヘイトは当然コクリコに集中している。

 ヘイトとは違って性欲を向けるカクエン達もコクリコ狙う。

 当の本人は自分に迫ってくる敵勢を見て、自分がこっちサイドで最も危険視されていると思っているようで、強者というポジションに立てている事に嬉々としていた。


「どんと来いですよ!」


「俺と足並みを揃えるつもりはないのか?」


「大活躍したいので!」


「だったらせめて魔法も併用しろ! 大勢相手に接近戦ばかりしすぎるんだよ。見ててハラハラする」

 もしも転倒なんてしたら、即、大勢に覆われてしまうからな。


「分かっていますよ。壁を破壊した時のような本気を見せてあげましょう! アドン! サムソン!」

 主の声に素直に従うサーバントストーンがコクリコを中心として左右に展開。

 手首と足首につけた装身具のタリスマンも輝く。

 この間、集中するコクリコの動きが鈍くなるので、俺が立ち塞がって迫る相手を撃退していく。


「どいてください」

 の、一言に従って跳躍し、後方へと下がったところで、


「アークディフュージョン!」

 と、非殺傷ながらも強烈な電撃で相手を麻痺させる魔法を発動すれば、コクリコのワンドからだけでなく、二つのサーバントストーンからも発生。

 宙空を蛇行する三本の青白い電撃が迫る敵勢の先頭に触れると、電撃は伝播。

 三方向で電撃が伝播することで広範囲が電撃に襲われる。

 眼界が青白い電撃という光景に支配され、耳も劈き音によって支配される。


 ――……。


「いや……コクリコじゃないみたいじゃないか……」

 この火力……。


「お前は誰だ!」


「コクリコ――コクリコ・シュレンテッド」

 あまりの強さに疑いが芽生え、本人かと問えば、強者然としたクールな声音で返してきてくれた。

 完全に自分の強さに酔いしれているな。

 酔いしれる姿は俺の知るコクリコ・シュレンテッドそのものだった。

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