PHASE-239【G級装備じゃないよ。G装備だよ】
「頭部を狙う理由は、ダイヒレンの部位の中で一番もろい部分でもあるんですよ」
と、クラックリック。
必要な素材部分を得る為に一撃で頭部を破壊すれば、上質な状態で素材が手に入る。
こいつらは素材を提供するために存在する生き物です。と、口端をつり上げての発言は悪者その者だぞ。
流石は山賊と行動していただけはあるな。まだその名残がある。
「新米達に人気があるのは他にも理由があっての――――」
駆け出しから卒業すれば、気が大きくなってしまうのは誰しものことだろう。
だからこそ、背伸びをしたいという事から、加工が簡単なダイヒレンの上翅防具を仕立ててもらう時に、上乗せをし、自分が理想とするデザインに仕立ててもらうとか。
世界で唯一、自分だけのワンオフ装備を作ってもらいたいという浪漫がそこにはあるのだそうだ。
わからんではない。
というか、大いに理解できる。
ゲーム装備でもコモンは頼りなく、レアだともう一つ足りないといったデザイン。
それがレジェンダリ―クラスになれば一気に恰好がよくなるからね。
シェーダーなんかも自分好みのカラーリングにこだわるからな~。
で、シェーダーが足りなくなって、それをまた手に入れる為に頑張るって流れだよな。
元の世界だろうが、異世界だろうが、こだわりたいのは共通だな。
生物よりも鉱物に特化したドワーフだが、素材となればギムロンは喋々だった。
「が、しかし……」
如何にダイヒレンの装備がいい物であるかというギムロンの熱弁はしっかりと伝わっては来るのだが……、
「どうしたい?」
いや、口には出すまいよ。
俺が口を閉ざしたままだから、ギムロンは気になっているようだ。
どれだけ熱弁をしたところで、素材として使用されるのは……、壁に立てかけてるでっかいGだからね!
俺は絶対に拒否したい装備だよ。
どれだけ加工が容易でワンオフみたいに出来るとはいっても、G装備は嫌だ!
G級装備はWelcomeだが、G装備はWelcomeの頭にunをつけたい。
自分がG装備を装備していると想像しただけで、身震いしてしまう……。
「しかし妙だな」
「じゃな」
Gの立てかけ作業を終え、松明を前方に向けて暗闇を凝視するクラックリックに、裸眼でも十分に暗闇を見通す事の出来るギムロンが、額に手を当てて遠くを見るような仕草と共の相槌を打つ。
まあ、確かに妙である。
俺は鷹揚に頷いて二人の会話に理解を示す。
「何がでしょうか?」
胸元に
自分一人だけが理解していないという疎外感からか、声には些かの焦燥が含まれている。
「これだけ騒いだのに、コボルトが騒がないし、何よりお馬鹿なコクリコがいる先発の反応もない」
入り口でコボルトが俺を狙撃してきた。そして逃げ出した。
これだけ音を出しているんだから、何かしらの反応があってもいいんだけどね。
コボルトが攻撃を仕掛けてくる気配はない。
「――――では、待ち伏せでしょうか?」
頤に手を当て、推測を口にするタチアナ。
それが一番ベタだよね。と、俺は首肯で返す。
「いや~どうかの」
と、ギムロン。
この洞窟は駆け出しが挑む所。
不意打ちをするのに適した場所はないとのこと。
加えてコボルトは人間同様に、暗闇の中を見通す視力は持っていないそうだ。
待ち伏せするにしても、暗がりで待機していれば、攻撃的になっているダイヒレンに対応できないだろう。
となれば、奥側には灯りがあってもいいはずだが、現在地から先を見ても光なんてありゃしない。
「もしかしたら討伐は完了しているのかもしれませんね。入り口にいたのは生き残りだったのかもしれません」
先発がさっさと終わらせて、俺たちが洞窟に入る前に別ルートから町に戻った可能性もあると、クラックリック。
ただ、声音は明瞭ではない。
「なにか他にも?」
続けるように促せば、
「最悪を想定した場合、入り口付近にいたコボルトはやはり見張りであり、そうなれば先発組は全滅したとも考えられます。冒険者が討伐に来ているからこそ、第二陣に備えて迎撃には来ず、最奥部で待ち構えているという事が考えられます」
「ううむ……。全滅の可能性も視野に入れねばならんか……」
ギムロンの声は暗い。
「……それはあり得ることか?」
質問する俺の声は若干だが上擦っていた。
発し終えてそれに気付く。
「位階が
いやいやクラックリックよ、それはないぞ。
いくらノービスだけとはいえ、コクリコの攻撃魔法は強力だろう。
アークディフュージョンってのが集団戦において特に有効だ。
実際に目にもしている。
海賊達を一気に戦闘不能に追い込んだ伝播タイプの電撃魔法。コボルトが集団でいるとなると、あいつなら間違いなくそれを使用しているだろう。
ザコポジションのコボルトならそれだけで解決しそうなんだが。
それにコクリコは魔法使用だけでなく接近戦も強い。というか接近戦が図抜けて強い。
敵に接近されれば、強烈な素手による攻撃を繰り出すだろう。
コボルト程度なら魔法を使わずに、ステゴロでも討伐可能な実力を有している。
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