PHASE-199【秘策、こうかはばつぐんだ!】

「どうだベル?」


「な、なにがだ」

 舞い上がっている姿を衆目に晒して恥ずかしかったのか、頬を紅潮させてコホンと嘘くさい咳咳払いを一つ。


「これが俺が考えた女性専用のお店だ」


「これが……か」


「そう! ファンシーな生き物に囲まれて楽しい一時を過ごし、心も体もリフレッシュ!」

 言って、ゴロ太に目配せ。

 コクリと頷けば、意匠の凝った彫金のモノクルがキラリと光る。


 ぴょこぴょこと可愛らしく移動し、


「んしょ」

 ソファーの背もたれ部分をよじ登ってベルの背後に立つ、


「なにをするつもりだ? 落ちては危ない。下りなさい」

 優しさ全開のベルだが、


「トントントントン♪」

 愛らしく、しかし愛らしくない声と共に両手が動く。

 正確には前足か。


「はあぁ」

 ベルの声がエロい……。


「ゴロ太の肩たたきサービスだ」

 勝ち誇ったように俺は笑みを浮かべつつ発す。


「トール……」

 あれ!? ベルさんふさぎ込んだけど、これはダメだった?


 まさかの子グマに重労働とかって感じでお怒りか?


「…………お前は実をいうと、商売の天才なのではないか!」

 ベルからここまでのお褒めの言葉をいただけるのは初めてじゃないかな?

 すんげえ喜んでるよ。


「これはいい! これは――――いい!!」

 破顔でご満悦だよ。


「「ちょっとベル風紀委員長!?」」

 いきなりトップがゴロ太によって籠絡されたもんだから、風紀委員の二名が焦っている。


「いいではないか、こういうお店があっても。私は足繁く通うぞ。散財する自信がある!」

 そんな自信を自信もって言われてもな……。


「でも、これは女の子が喜ぶものであって、女性が男たちに酷いことをされるような店はダメでしょ!」

 シャルナが必死になるが、


「だからバウンサーを配置するし、そんなことにはならないから。男にも癒やしを与えないと。な、ゴロ太」

 口角を上げて子グマにパスを出せば、


「癒やしは大事ですよ。ね、お嬢様」

 と、風紀委員のトップに向かってシュートを放ってくれる。


「ああ、大事だ」

 見事にゴールに入ったようだ。

 ベルって、あれだな。

 ――――ちょろインだな。




「カイル、野郎たちを集めろ」

 話し合いが終わったことを伝える。 

 

 話し合いが始まる前。ベルが話し合いに参戦するという事から、カイルたちの表情は実に暗いものだった。

 

 男である以上、冒険者である以上、いつ散り果てる命か分からないからこそ、全力で今を楽しみたいもの。

 その楽しみの中には、酒と女も含まれるのは世の常だろう。


 俺たちトップの話し合いにて、ベルが反対派として参戦した以上、この話はなかったことになると、カイルを始めギルドメンバーの男たちは、仄暗い気分に支配されていたようだ。

 

 だが、俺が自室から出てきた時の表情から、カイルは全てを理解したようで、次の動きは俊敏だった。


 一気に三階から二階へと下り、大声で招集をかけ、一階に野郎たちを集めさせる。


「まったく、無頼漢の悪い顔をした連中が暗い顔しやがって」

 口端をあげて、二階から一階に続く踊り場に立ち、諸手を手すりにおいて見下ろす俺の第一声がこれ。


「皆、喜んでくれ」

 と、継げば、言った途端に歓声が上がる。

 俺がなにを言うのか、この時点で理解したようだ。

 

 なので――――、


「今後もクエストに励んでくれ! 王都の復興と魔王軍の討伐を達成すれば、綺麗なお姉さんたちとお酒が飲めるぞ!」


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお」」」」

 こんなもんですよ。男なんて。

 

 綺麗な女性と楽しい時間を過ごせるとなれば、しゃかりきになるのが男なんだよ。


 俺が高らかに掲げた拳を勢いよく振り下ろせば、それを合図として、皆さん我先にと一階に設置された掲示板に向かい、貼り付けられた依頼書を掴み取る。

 依頼内容に目も向けず、報酬の多少も問わず、奪い合うようにして受付へと猛ダッシュだ。

 

 いまだ慣れない受付の中で、突如として訪れた繁忙の極に、受付嬢たちが半泣きになりつつ応対していく光景を眺める俺。

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