PHASE-907【紹介して】
「さあ男爵。この町で仕事の出来る人間をチョイスしてくれ。この規模の町を統治するには男爵だけの力だけじゃないだろう。有能な人材プリーズ」
「畏まりました」
現在、深夜。
場所は俺達が目の前で縮こまっている男爵から借りている本邸の応接室。
裏路地の兵士たちは俺の指示通りこの本邸に商品となっていた方々を無事に送り届けてくれていた。
兵士たちに事情を聞いたマンザートは屋敷前にて俺達の帰りを待ってくれており、それどころか部隊を編制し男爵別邸にて倒れている連中の捕縛へと向かってくれる有能さを見せてくれた。
ベル達も俺達が何をしていたのか聞きたがっていたので、男爵ことブリスト・ミシャー・レンキドールが俺が好むような人材を思い浮かべては羊皮紙にその名を書いている間を利用して、ベル達に俺達が実行してきたことを語った――。
話を進めていけば、寝惚け眼だったコクリコの目が途端にくわっと見開き、なぜに私を同行させなかったのかとお怒り。
目立てるシチュエーションがあったのに、そこに立っていなかったことが非常に悔しかったようだ。
なだめつつ、お前の手柄にしていいからと伝えれば、伝える前から捏造自伝のためのメモ帳にスラスラと書き始める辺りは流石である。
「――こ、こちらに……」
「うん。ありがとう」
弱々しい発言なのは応接室で男爵を囲んでいるのが自分の味方ではないからだろう。
右を見ても左を見ても強者ばかりだからな。
俺のパーティーにカイルとマイヤだけでなく、他のギルドメンバー。
そんな面々が冷ややかな視線を向けるわけだから、目の前のおっさんが肩身を狭くするのは当然。
羊皮紙に目を通す。
――……こういう時、適材適所の神である先生がいてくれれば助かるんだけど。
先生以外でこの場で人材を見る事に精通しているとなればゲッコーさん。
見せれば、書かれた名前の中から、
「この行政官のモンドというのは?」
「はい。この町で私の代わりとして法令に携わる行政官でございます」
このモンドなる人物、決定された条例などを確実に実現させる有能さんだそうだ。
良かれ悪かれ、上の者が下した事には反論もせずにこなしていくTHE縦社会の住人といったところ。
その部下の者たちも淡々と仕事をこなしていくそうで、このモンドに任せておけばこの町の行政は滞りなく進むということだった。
「この町だけってのも勿体ない人材だな」
ゲッコーさんの評価ではもっと大きな事を任せてもいいだろうとの事。
ミルド領内で男爵が統治する領地の名はレンググ。
領土は広くはないが、以前、王都との行き来が盛んだった頃は交易によって栄えたこのククナルを有していることから、かなりの財貨を男爵一族は有しているという。
魔王軍に瘴気。そしてカリオネルの馬鹿が原因で汚い金の稼ぎ方も覚えたみたいだけども、領地は豊かである。
豊かさを維持しているのは、行政官を中心とした政策に従事した者たちの活躍が大きい。
「この人物に会いたいと言えば?」
「今すぐにでも」
頬にはまだナイフの冷たい感触が残っているのか、ゲッコーさんが問えば男爵は椅子から跳び上がって踵を返そうとする。
「ああいいよ」
ここは俺が止める。
流石にこんな遅くに来てもらうのは悪いからと言えば、目を丸く見開く男爵。
公爵が来いと言えば、どんな状況下であってもここへと馳せ参じるのが普通なのだそうだ。
俺はそんな普通は普通だとは思わないので、昼前にこの本邸に来るように伝えてほしいとお願いする。
難しいならこちらが時間を向こうに合わせるとも付け加えれば大層に驚いていた。
本来なら爵位と土地を没収。族誅が当然だったはずなのにそれをせず、更には俺がお願いをすると頭を下げたことが心に響いたようで、男爵が急に崩れ落ちて泣き始める。
「なんどいう。なんどいう慈愛の御方なのが! 暫定公爵ざまとは違いずきまずぅぅぅぅ――あぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
うるせえ……。
多分だけどカリオネルとは真逆の言動なんだろうな。
あの馬鹿と見比べて感極まったのかもしれないが……、こんな夜中におっさんの泣き声を聞かされるとは思いもよらなかったよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます