PHASE-906【押さえ込むのも時には必要】
あんなのを敬愛ね。コイツの目は節穴か?
でもって、こんな奴を少しでも褒めた俺の目も節穴って事か……。
腹が立ったので、
「とりあえず最高の力でお前を殴る」
「ええ!?」
「まあ待て」
八つ当たりとばかりに男爵に握り拳を見せれば、ゲッコーさんが止めに入る。
「本音は?」
いままで何もしなかったゲッコーさんが前に出て男爵に問えば、ゲッコーさんの眼力に気圧されつつ、
「褒めるだけでいいので御しやすく、こちらもそれで行動しやすかったからです」
と、本音を述べてくれた。
なるほどね。
あんなんだからな。おべっかしてれば後は楽。
カリオネルだけに頭を下げて、自身の領地では好きなようにする。
なんか安堵。俺の目が節穴でなかったのを回避できた気分だ。
なので作った拳は解除。
「小者かと思ったけど、ズバズバとしたはっきりな物言いと、潔さはいいよ」
「ありがとうございます」
やや嫌味も含めて言ったつもりだったけど、当の本人は笑顔である。
小者ではあるけども、町を発展維持させるだけの才能もしくは人材を見る力はある。
先生がこの場にいたなら、男爵の濁った部分だけでなく、清い部分も見てそういった判断もすることだろう。
一悪を以て衆善を忘れず。だな。
――この男爵の場合は一善と衆悪って感じかな。それでもその一善を見逃しては駄目なんだろうな。
でも――。
「奴隷売買とそれで得た利益なんかは許せないね」
「従うのならば今の地位は約束してくださると言いました。どの様に従えばよろしいのでしょうか」
地位の維持が出来るなら自分に出来る事はなんでもするという。
本来なら死罪は当然なのだから、俺に対する大恩を終生忘れずに励むと約束もしてくれる。
信用はしないけどな。
「今まで通りこの町や領地の統治は任せる。でも俺の信用を得たいなら今まで通りの統治では駄目だぞ」
「ではそれを実践すればお咎めなしなのでしょうか?」
「んなわきゃねえだろ。なめてんのかテメー」
輩チックに蹲踞の姿勢で凄んでやれば、地面に額をつけて体を丸くする土下座スタイル。
「ちゃんと罰はあたえるっての。お宅がいままで稼いできた悪銭部分は没収。加えてこの領地で売買された奴隷達の解放。金を支払った者たちには奴隷購入時の倍の金額を支払って解放させる。もちろん支払いは男爵個人の資産からだ。この町や男爵領からの支出、捻出は駄目だからな! こんな事では経費は落ちません」
「そ、そんな……」
なにを絶望的な表情になってんだよ。
お前以上に奴隷の方々は絶望の中で生きてんだよ!
イラッとしたので鞘から残火を抜いて、
「よし分かった。これに耐えられないというなら貴族らしく名誉ある死を与えよう。手ずから首を斬り落としてやる。スパッといこう。さあ、首を前に出せ」
すっと抜刀すればそこはゲッコーさんとカイルである。男爵が逃げないように背後から体を拘束。
カイルが後頭部をぐっと押して顔を地面へと向けさせれば、
「大丈夫だと思うが仕損じるなよ」
追撃とばかりのゲッコーさんの冷たさを纏わせた発言。
「分かりました」
なので俺も酷薄に返答。
「待って! 待っていただきたい! 公爵様のおっしゃる通りに致します」
「あ、そう♪ そうこなくっちゃ」
直ぐさま鞘に収めて笑顔で対応。
ちょっと脅せば簡単に従ってくれる。
こういうのは本来はよくないけどさ。
こういった連中にはこれが一番。
男爵もそうだけど、他の諸侯にもこういった対応をさせてもらう。
公爵継承の祝いの席でデモンストレーションも行う予定だし。
俺たちの力を目の当たりにして、素直に従う程度には恐怖を刻ませてもらうよ。
今回はその皮切りってところだな。
独裁者的な支配体制だけども――、
「いままで好き勝手にしてた連中に同情はしないからな。でも男爵はそれなりに町をうまく統治していたからその辺りは評価する。だから――俺達の期待を裏切っては駄目だよ……」
仄暗く発せば、ゲッコーさんが絶妙なタイミングで冷え冷えなナイフの刃を男爵の頬に這わせる。
――――次は無い。
そういった意味合いであるというのを理解させるのに十分なほど冷えた刃だっただろう――――。
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