PHASE-171【モブの名前じゃねえ!】

 あれだろ、そこなモブよ。お宅が次ぎに口にするのは、ワック・ワックさんかゴロ太が、山賊に捕まったって発言なんだろう。


「どうしたのウェンセスラス」

 シャルナが発したモブの名前。

 

 ――……なんだよその無駄に格好いい名前は。

 お前なんて、ここだけの登場だろうに!

 

 人にはそれぞれの人生がある。なので名前だってあるし、格好良くてもいいだろう。

 だが、お前の名前は、ここで使用されるものではない!


「ワックさんが山賊たちに捕まった」

 ほら、はたして正にだし、どうせお前の台詞はこれにて終了なんだろう。

 ウェンなんちゃらめ! その程度の台詞数で、無駄に格好いい名前しやがって。

 

 でもって、これから助けに行くんだろ。


「場所は!」

 興奮気味のシャルナが、肩で息をするウェンなんちゃらの肩を掴んで揺さぶる。

 

 その間に、俺はアキレス腱を伸ばして、柔軟体操を始める。

 俺たちも行かないといけない流れだからな。

 走らないといけないからな。





「――――で、ここか」

 警邏をしていた人達とも合流。

 ワックさんと行動していた方々らしい。

 一瞬はぐれてしまって、その間にワックさんが捕らえられたと、シャルナに申し訳なさそうに説明していた。


 シャルナお手製の弓を装備した屈強な男達。

 力自慢。更に瘴気からの解放。

 俺やゲッコーさんが危惧していたように、緊張感が弛緩してしまったようだな。


 山道から離れた茂みに、草木を使った小屋が四軒。

 葉の屋根に、土壁。


 急ごしらえで作った見た目だが、十分に住める作りだ。


 クラーケンがいた島の海賊もそうだったが、賊と呼ばれる連中は、なんでこういう技術を世の為に使わないのか。


「こんなところに拠点を作ってるなんて」

 おいおいそれでもスカウト専門のエルフの冒険者ですか。と、言ってやりたいが、場が真面目な状況なので口には出さない。

 俺が勇者だって事は信じられないと、さんざっぱら言われ続けたが、俺は優しい男なので口に出す事はしない。

 さてと――――、どう攻めるか。

 車座でプランを考えていると、


「悪党ども出てきなさい!」

 以前の約束を全力で破ったな! このまな板娘!

 でっかい声出しやがって!

 

 隠密で行動できないのかね。俺たちに迷惑をかけたらパーティーから速攻で追い出すって事を忘れてますか?


 お前なんてな、パーティーから追い出されたら、それで終わりの存在だからな。

 追放された後に、TUEEEEEな活躍でチヤホヤされる主人公たちとは、違うんだからな! 

 スポットライトに照らされるポジションとは対極の存在なの!

 だから、俺たちに迷惑をかける行動をとるんじゃねえ!


「ファイヤーボール」


「だから暴走すんなや!」


「お前も十分にうるさいぞ!」

 なんで俺だけ叩くんだよベル!

 愛情の裏返しとして勝手に受け取るからな。

 俺ってポジティブ。

 などと思っているところではない。


「何してんだ!」

 俺同様に、村の方々に怒られるコクリコ。


「誰だ!」

 小屋の中から出て来ると、誰何する山賊。

 続々と残りも飛び出してくる。

 

 幅広の剣で統一された装備。

 重量がありそうだが、それを得物とする力自慢といったところか。


 レゾンの海賊たちみたく、もじゃもじゃのひげ面ばかり。

 つまりは――――、モブ。

 

 だが、油断はしない。

 

 モブでも、村のモブの名前は格好良かったからな。

 

 モブでも実力はあると判断するべきだろう。


「事ここに至ってはしかたない。戦闘準備! 相手が状況認識を終える前に一気に叩くぞ」

 抜刀してから先頭を走り出す俺。


「様になってきたじゃないか」

 ハンドガンをスライドさせながら続くゲッコーさん。

 ハンドガンは麻酔銃だ。


「俺が勇者だって事をあのむかつくエルフに分からせないといけませんからね」

 なんて返しながら、刀も返す。

 峰を相手に向けての胴打ち。

 急に茂みから飛び出した俺に対応できなかったようで、綺麗に胴に入った。


「ぶぇ……」

 と、クリティカルだと伝えてくれる苦痛の声。

 力なく崩れ落ちる賊の一人。


「ベルヘルトライヒェン!」


「は?」

 山賊の一人がそう叫ぶ。

 俺の攻撃によって倒れた男に向けて、確かにそう叫んだ。


 ここいらにいる連中は、モブっぽいのに、名前のくせがすげぇ!

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