PHASE-687【ライターいらず】

 カイトシールドやシュールコーなど、様々な用途があるダイヒレンの上翅と下翅。

 用途が多い分、需要も多いので安定して買い取ってもらえる。

 ギムロンが結構いい金になるとも言っていたけど、実際に売りに出せば良い金で買い取ってくれた。

 ヘッドショットがしっかりと決められるようになったから、素材で使用出来る部分が傷を負っていなかったので、良質な物として更に値がついた。

 

 以前の洞窟では、胴体を撃って商品価値が無い物も多かった。

 今回はそれが一切無かった。射撃による戦闘スキルは以前の自分とは比べものにならないほど向上している。

 おかげでいい金になった。

 ま、ここで全部なくなるけども気にしない。それ以上に繋がりが大事だ。

 俺が今まで貯め込んでいた手持ちも全て使っていいくらいだ。


 ここで無一文になっても、競りに出したアイテムもあれば、競りには出していないが初っぱなで手に入れた金塊もある。

 希少アイテム同様に金塊も侯爵に預けた。

 侯爵の話では、金塊はその重さから少し差し引いた分の金貨と交換してくれるそうだ。

 

 金塊を金貨に変えるための加工費用分が引かれるとの事。

 引かれるとしてもわずかだそうだから、かなりの額になるでしょうと侯爵。

 円形金貨にしてどのくらいになるのやら。これまた楽しみの一つだ。


 ミスリルを初めとする装備品は王都に持って帰り、ギルドメンバーの報酬として利用。

 一つのダンジョンを攻略するだけで財を築けるってのは凄い。

 ダンジョン攻略に浪漫を求める冒険者の気持ちが、目に見える利益になった事で理解できた。

 アイテムや素材が大金へと変わり、それが目の前にドサリと出されれば脳内麻薬がやばいぐらいに出るのも知った。

 あの気持ちよさは癖になる。

 侯爵に預けているお宝は、現在手に入れた利益を容易く超えるのは確定している。

 後日その利益を目にすれば、脳内麻薬で気持ちよくなるのを通り越して、馬鹿になるかもな。


「さてトール。今回は二人だけでの対応だったが、自分でも分かる程の成長はあったか?」


「おうさベル! ようやく自力で魔法が使えるようになったぞ」


「そうか」

 さっきまでダイヒレンが原因で機嫌が悪かったけども、俺の自信ある声に笑みを湛えて素直に喜んでくれる。

 こういった表情が嬉しい。


「で、何が使えるんだ」

 ゲッコーさんも気になるようだ。


「今回は皆に煙たがられる煙草を吸ってもいいですよ」


「お前がよくてもな……」

 廃城地下施設での女性陣からの日頃の煙草に対する不満を聞かされてからは、分煙を心がけているようだ。

 この人がS級さん達やその他の兵達を指揮する指導者なんだぜ! と言って、誰が信じるだろう。ってくらいにオドオドしている。


「まあ、いいですから」

 周囲に軽く会釈。今までそんな事をしなかったのにね。

 伝説の兵士が申し訳なさそうに煙草を咥え、オイルライターを手にして使用する手前で、


「まあまあ」

 と、出すのを制してから、


「ティンダー」

 発せば、俺の食指の先端にマッチサイズの火が顕現。


「おお!」

 煙草を火に当てて紫煙を燻らせる事、一回。


「こりゃ便利だ。ライターが無い時は頼まないとな」


「いつでも貸してあげますよ」

 まあライター代わりで活躍ってのが悲しいけども、ちょっとした時に火が必要となれば結構便利なんだよな。

 たき火の時の種火にもなるし、戦闘時はモロトフカクテルに着火するためのライターを準備するという行動をスキップできる。


「それで、それ以外はないのか?」


「ウォーターカーテンっていう相手の攻撃魔法を相殺出来る障壁魔法が出来るようになった」


「相殺ということは障壁は維持出来ないんだな」


「まあな。でも防げるってのは有りがたいぞ」


「そうだな。今まで自力で魔法を習得していなかったが、ようやく一人で歩き出せるだけの力を得たか」

 更に喜んでくれるベル。

 部下の成長が嬉しいといった上官の笑みだ。

 もっと違うタイプの笑みが欲しいが、褒めてもらえているので良しとしよう。


「一人で歩き出せてもまだまだ一人前と呼ばれるには力不足。なので、これからも頑張るんで協力よろしく」


「いいだろう」

 こうやって快諾をもらえるところは進歩だよな。

 

 頑張っている成果が出ているので、これからも頑張る。

 という、小学生みたいな思考で頑張る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る