PHASE-746【奇跡と書いて特効】
「いきますよ」
「いつでもいいぞ」
鞘の栗形にある金槌マークに埋め込まれた緑色の宝石を押し込めば、刀がせり上がり、鍔が六方向に広がり六花の紋を象る。
赤と黒が交差した柄紐による柄を握り、煌びやかな白刃を抜き出して向けるのは――、門にあるポートカリス。
切っ先を向けてなんだが……、俺はS級さん達が何処に仕掛けているかなんて聞いてもいなかった。
「任せろ」
と、聞いてはいなかったが心配はいらなかった。
しっかりと必要な箇所には仕掛けてくれている。
向けたとほぼ同時に爆発が起これば、鉄製のポートカリスが音を立てて落下。
劈く金切り音が一帯を支配し、近くの壁上にてクロスボウを構える兵達がそれより手を放して、耳を塞ぐ動作を選択するのには十分な大音量だった。
もちろん俺たちと同じ目線に展開する傭兵たちだって同様だ。
「これぞ勇者殿の奇跡よ!」
すかさず伯爵が得意げに発する。
遅れて相対する方からは動揺の声が上がる。
「さあ、次は是非とも前を遮る愚者共を爆ぜさせ、血肉を盛大にまき散らしてくだされ」
何ともおっかない事を頼んできますね伯爵……。
発言を耳にした途端に、相対する方向は動揺から絶望と悲鳴に変わった。
恐れてくれるのは勝手だけども、流石にそれは出来ないよ。
いや、ゲッコーさんやS級さんなら背後からC-4 をくっつけて準備万端とか出来そうだけど、だとしても俺が爆破指示を出したくないよね。
とりあえず――、
「門の上の壁上でもどうだ?」
俺が何処を爆破させようか思案していれば、背後のゲッコーさんからの指示。
何処に仕掛けているかそもそも俺は分かってないから適当に向けようと思ったけど、後ろからの指示を受けたほうがありがたい。
言うだけあって門の上に位置する壁上には人がいない。
ポートカリスを破壊した事で、爆発した付近から待避していた。
「そら」
「もっと踊れよ」
後ろからは悪戯じみた声。
切っ先を向けるだけでは面白味がないという事だろうが、向ければ同時に爆発は起きる。
爆発で胸壁が爆ぜると大きな塊となって落下。
飛び散る石材の破片が恐怖を駆り立てる。
「くそ! 怯むな!」
そんな中でも一部の傭兵たちが俺のなんちゃって奇跡に怖じけながらも迫ってくる。
「腰が引けてるんだよな~」
残火の白刃をわざわざ振るうような手合いではない。
俺達の前に立つミランドが何とか止めようとするも、俺は無理と判断。
ミランドをどかせてから床を滑るように疾駆して、白刃から峰へと返してドドドドッと四連攻撃。
音の数だけ傭兵の数が倒れる。
本当は鞘をつけたまま振るのがいいんだけど、なんちゃって奇跡で抜き身の状態だからな。
「くそ! 強い! 強すぎるぅ!!」
こそばゆくなる台詞をありがとう。
「コイツ!」
四人の後ろから追従していた一人が、自身の背後から発せられた俺が強すぎる発言を何するものぞとばかりに躍りかかってくる。
黒い毛皮のマントを靡かせつつの跳躍は中々の高さ。
振り下ろすロングソードに対し、
「ウォーターカーテン」
を展開。
薄い水の幕が俺の前面にて上段から振られる白刃を受け止めて相殺。
「ちぃ! 流石は勇者か」
いや、これ基礎魔法だから。
プロテクションなんかと比べると全くもって大したことのない魔法だ。
俺個人の実力で習得しているから自慢でもあるんだけどね。
二撃目は下方からの斬り上げ。
俺の胴体部分を狙おうとするが、
「そいや」
小気味よく俺の左ストレートで吹き飛んでもらう。
ピリア有りきとはいえ対人戦闘ってなると、亜人やモンスターと違って簡単に吹き飛ぶな。
「勇者殿、遊興が過ぎますぞ。さあ! わずかでもよいので本気を出していただき、防御壁を一撃のもとに破壊してくだされ!」
俺はベルじゃないよ伯爵……。
そんな力を俺個人が持っているわけがない。
ミズーリやらそれ以上の存在を召喚すれば容易いけどもさ。
とはいえ伯爵の発言は絶大のようで、相手は更に恐れ戦いてくれる。
俺がそのような芸当を本当に出来ると思っているようだ。
安心してください。出来ませんよ。
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