PHASE-89【確実に俺は成長している

 しかし、まんまだな。

 もじゃもじゃの整えられていない髪と髭。

 髭にはパンの食べかすみたいなのがついてる。

 服も洗ってない。

 元々は白だったのが、黄ばんでるぞ。

 黒色を着てる奴のは、色あせして、部分部分が灰色になってる。


「生意気なガキが――――お!? スゲー美人だ! こりゃいただぎぃ!?」

 ボンと音がすれば、言い終える前に、色あせ黒シャツの男が、顔から煙をのぼらせながら前のめりだ。

 ちりちりと髭やら髪が燃えているのか、特有のいやな臭いが鼻に届いた。

 やる気に溢れているね……。

 嘆息を漏らしながら振り返れば、


「愚かなる賊共め! 偉大なるロードウィザードとその一行が、この地を訪れた事でお前達の命運も決定した! 大人しく縛に就くがいい!」

 格好つけたいちびっ子ウィザードが、琥珀色の瞳を煌めかせながら、自分の世界に没入しているようなポージングをしていた。

 中二病が全開だ。これ以上、悪化しない事を祈るよ。

 だがしかし、


「なんだよ、一行って! お前がおまけなんだよ!」


「細かいことは気にしないでください」

 細かいことを気にしない性格だから、不意打ちを平然と行えるんだろうな……。なんというか、戦術を心得ている。


「どうした!」

 宿からゾロゾロと……。

 手には思い思いの利器を持って、戦闘準備は万端といったところだな。


「おお……」

 やはりというべきか、血気盛んに出て来るも、ベルを見ると、一瞬、見とれてから動きが止まるな。

 涎がたれないぶん、オークよりはまともなようだ。


「――幼女…………」

 ――……この世界にまともな悪人はいないようである……。

 まともな悪人てのもおかしなもんだが、それはいい。

 いま言ったの誰だ? ロリコンが一人混ざってるぞ。


「まったく救えない者たちばかりだ」

 ロリコンも混ざっているからなのか、ベルの声音はおっかない。


「全員ここで倒させてもらう」

 継いで言うが、発言者に対して、海賊たちは「「「ぐへへへ――」」」と、下品で典型的な悪役の笑い声。

 利器を地面に置けば、諸手をワシワシとする。

 ベルの胸を揉みし抱きたいという気持ちの表れなんだろう。

 代表して、一人が無手にてベルへと飛びかかろうとするので――――、


「よいしょ!」

 快活良くバットをフルスイングするイメージで、峰打ちを胴に見舞ってやった。

 うむ、綺麗に入った。野球少年としての道もあったんじゃないだろうか。と、自画自賛したくなる綺麗なスイングであった。

 漫画のように、打ち込めば敵が吹き飛ぶという芸当は俺の膂力では出来ないが、力なく俺の横でどさりと倒れると、ピクピクと痙攣している。


「汚え手で、うちの中佐殿に触れようとするんじゃねえ!」

 ホブゴブリンに比べたら、無手のむさいおっさんなんて脅威にも思わないね。

 全力でかっこつけさせてもらうぜ。


「いい一撃だった」

 雄々しく戦う男には好感を持つとばかりに、柔和な笑みを俺に与えてくれた。

 これだけで、ゲーム内のベルの部下たちは主人公たちと戦えるんだろね。だって、俺もこれで戦えるもの。


「このガキが!」

 地面においた利器を拾おうとする。だが、それを待ってやるほど俺は出来た人間ではない。

 屈んで伸ばす腕に出小手の要領で一撃。


「ぎぃ!」

 峰とはいえ、重量ある金属の一撃を食らえば、それだけで体は海老反りになって、痛みに表情が歪んでいた。


「いただきです!」

 気迫のこもった声に継いで、「ファイヤーボール」と唱え、海老反りしているおっさんに直撃。

 おっさん、後頭部から地面に倒れ込んだ。


「よし、これで三人ですよ。その内、私が二人。自伝に活躍を書かないと」

 げにたくましき十三歳よ。

 このパーティーで弱そうな二人からの先制に、慌てたじろぐ残った面々。

 急いで武器を手にするも、ベルが一足飛びで間合いを詰めれば、掌底で顎を打ち抜き、膝裏にローキック。

 見舞われた男の目が、ぐるんと回るようにして白目になり、崩れ落ちる。

 俺が峰打ちで対応しているから、レイピアどころか、炎も出さないな。というか、使用しなくていいレベルの相手か。

 俺ですら、驚異を感じる程の威圧感を受けないからな。

 やっぱりレベル24にもなれば、この程度の相手では、俺の心胆を寒からしめるには無理があるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る