PHASE-94【上げて落とすスタイル】

「炎を纏った魔女。耳にした、王都に現れた女か!」

 ロリっ子の、渾身のポージングに関心のない海賊たちは、ベルに恐怖を抱いている。


「ぬぬぬぬ!」

 相手にされていないからか、不機嫌さに支配される表情。


「愚か者どもめ! 我が力を思い知るがいい!」

 無視された怒りから、ワンドを空へと掲げる。

 透明感のある貴石のような青い石が、黄色に輝く。

 いままでは赤色だったが、今回は黄色だ。

 俺は色で何となくだが、何系が唱えられるのか理解できた。


「アークディフュージョン」

 ワンドから放たれる電撃が、海賊の一人に見舞われれば、電流が周囲にいる海賊たちに伝播する。


「「「「あ゛ぁっぁぁぁあいゆがぁぁぁぁ」」」」

 おお、痺れているな。

 体をビクンビクンさせながら、海賊たちがバタバタと倒れる。


「すげ~」

 感嘆の声を漏らしてしまった。これは、絶対に俺も魔法を使えるようになりたい。

 命を奪わない用の魔法ならとくにいい!

 というか、雷系だろうそれ。教えろ! ギルド名やら、雷帝やらの設定で、大至急に覚えたい系統なんだよ。


「こいつら強え……」


「強いのは女二人だ。男は大したことない」

 おい! その疎外感を感じさせる発言やめろ! ムカついたので、大したことない発言をした海賊には、きつめの峰打ちを見舞ってやった――――。


「よっし、残りもわずかだ」


「私一人ならすでに終わっているぞ」

 消し炭ルートは回避だから。

 炎を纏っているとはいえ、そこは慈悲があったのか、命を奪う事なく、触れれば熱さで転げ回る程度のものに調整している。


「この町に二度と来ないと約束しろ!」

 ゲッコーさんに言われたように、残った奴らに切っ先を向けつつ強気に発言。

 目立つように六花の紋が入ったマントも見せてやる。


「うるせぇ! 調子に乗りやがって! 下っ端のガキが!」

 ――……なんだよ。下っ端じゃねえよ……。俺のマントは勇者の証だぞ。見たら天下の副将軍の印籠みたいに恐れ戦きなさいよ。

 暇さえあれば、俺が洗濯してるんだぞこのマント。どんだけシュールな絵面だと思ってんだよ。

 とは言うものの、偉そうな事を口にはしているが、すでに海賊たちは腰が引けている。


「くそ! 覚えてやがれ!」

 海賊としての体裁は守りたいのか、撤退と言うより、転進とばかりに船へと逃げ始めた。

 船端にはコクリコが立ってるんだけどね。


「私は勇者のように慈悲は見せませんよ」

 琥珀色の瞳を輝かせて言えば、海賊たちは悲鳴を上げて、コクリコを避けるように船に飛び乗る。

 光るワンドから火の玉が出て、船と港を繋げる板を豪快に破壊するコクリコ。

 脅しの一発を唱え放てば、軽快に港に着地する。

 船に乗った海賊たちは帆を張り、港より逃げ出していく。


「じゃあ、倒した奴らは縛って、牢屋にぶち込むか」


「まだ油断は出来ないぞ」

 俺達の前にベルが立つ。

 去っていく船の左舷が俺たちに向けられれば、準備されるバリスタ。

 往生際が悪すぎる……。

 ゴウッと、豪快は風切り音とともに、迫る槍サイズの矢。

 しかし、ベルが剣を振れば、矢はこちらに届くことなく炭になる。


「お、おぼえてやがれ!」

 おお……。なんてベタな。矢も通用しないとわかれば、震えた声で吐き捨てながら逃げていった。


「勝利です!」

 隠れているであろう住人に対して、コクリコが勝利宣言。

 反応して、わっと町中から現れる人々。

 送られてくる喜び、賞賛をコクリコが一人で全て受け止めるように、体は大の字。

 瞳を閉じて気持ちよさそうに口元を緩めて、満足そうで何より。

 捏造自伝の筆致も軽妙になるだろうな。


「ありがとうございます」

 人々が近づき礼を口にすれば、コクリコは有頂天である。


「いや、まだ終わりじゃない」

 そこから落とすかのように、静かに口を開くのはゲッコーさん。

 救われたと思っていたのに、終わりではないという発言で、一瞬にして静まりかえる。

 これから始まるんだと端的に述べれば、住人の表情からみるみる血の気が引いていく。

 手痛い目にあったが逃げおおせた。

 次ぎに来る時は、戦力を投入してくるのは必然。

 しかも、勇者である俺たちの存在を知ったからには、魔王軍も合流するだろう。と、ゲッコーさんはこの場にいる全員に伝え、更に、勇者を倒すために、難敵が投入されると付け加えれば、血の気が引いただけでなく、立つ力まで失ったのか、一部は膝から崩れ落ちるように地にふさぎ込んでしまった。

 さっきまでは喜んでいたのに、お前たちが来なければとまで言われる始末……。

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