PHASE-95【牙を見せてきたファンタジー】
一人が不平不満を口に出せば、続く者たちも当然、出て来る。
疫病神や、安寧を返せ。と、言いたい放題だ。
「安寧?」
その中の単語に引っかかったベルが、
「この様な家畜の如き生活。女を差し出して得られる安寧ならば、いっそ滅んでしまえ」
全体にはっきりと響き渡る声は、炎のような髪とは真反対のキンッとするような、冷たく低い声だった。
「我々は強くないのです。貴女のようには」
代表してベルの前に立つのは、町長のアルムンドさん。
「違うでしょう。貴男は、海賊と思っていた我々に刃を向けてきた。立ち向かう心を持っています。この状況を安寧と言う者とは違う」
戦う姿勢を見せる者には優しいベル。反面、安寧発言をした人には炯眼。
見られた人は、即座に目を反らしていた。
最近は俺に対しても辛辣じゃないからな。覚悟を持つことは大事だな。
「漁場を失い、船を壊され、徐々に弱らせていく。従えば助けるし、逆らえば死。だが、これは遅効性の毒だ。ゆっくりだが全身に巡る毒だ。いずれは死ぬ」
紫煙を燻らせるゲッコーさんがベルの横に立ち、住人に説く。
一番、人々を不安にさせてたのに、さらにここで追い込むとは。
と、思っていたが、
「心配無用だ。これは作戦の内だ」
突き放すすんでで手を差し伸べるゲッコーさん。
暗くなっていた住人の表情に、光明がさすかのようである――。
「で、作戦とは?」
小声で聞いてみる。俺だって知らないぞ。逃がしていいとは言っていたが。
「簡単だ。報復に来る。それを俺たちが一網打尽だ」
へ、なにこの伝説の兵士。マジで言ってんの? 多勢に無勢だよ。
しかも相手は洋上から攻撃してくるよ。
砲艦外交でもしてきそうなんだけど。
「我々が矢面に立ちます。ですから、皆さんも手に武器を取るのです。倒した海賊から武器を引っぺがし、無いならその辺の石でもいいのです。立ち向かう意思こそが大事なのです。こそこそとする時は終わりです」
何を焚き付けてるんだこのロリっ子は……。
俺は出来るだけ、住人を危険な目にはあわせたくないんだよ!
「この子の――」
「――コクリコです。ロードウィザードのコクリコ・シュレンテッドです」
いちいち訂正いらないだろう。ウィザードの頭に付けたロードもいらない。
「コクリコさんの言うとおりだ。我々には勇者様とその御一行がおられる。戦おう」
アルムンドさんは、コクリコの喋々に扇動されたご様子。
ちゃっかりと、「私が人々を奮い立たせた」って口にしながら、メモしている……。
アルムンドさんの檄に住人は、やってやる! と、俺たちに、自分たちの命運を全賭けするような勢いで奮い立っていた――――。
「ねえ……、全賭けでよかったのか?」
俺は今すぐ全速力で、自分の脚力の可能性を信じて、遁ずらかりたいんだが……。
後ろに目を移せば、手には海賊から奪った利器や、石に、棒切れの先端を尖らせた槍もどきを手にした住人が震えている。
――……眼界の光景で……。
ほら見たことか、俺の考えが正しかった。砲艦外交が始まりそうな感じだぞ。
「いや~想定外」
この伝説の兵士は……。眼前の光景に汗を流しているよ。
言い出しっぺなんだから、ロケラン背負って、泳いで接近してぶっ放してくださいね。
「普通の船だと思ってたんだが。あんなのもいるんだな……」
双眼鏡で眺める距離は二百メートルくらい。一日が経過して、今は正午ほど、快晴により、遠くの海までよく見える。
好天のおかげで、裸眼でも形状はしっかりと認識できる。
両舷に水車のような形状の推進器が備わっている。外輪船のような船――――ではなく、モンスター。
外輪船の甲板部分に存在するのはマストなどではなく、無機質な岩肌で出来た、人型の上半身からなる怪物。
「コクリコ、説明してくれ」
「あれこそ、魔王軍、脅威の魔導技術力によって生み出された、シーゴーレムです!」
海に浮く岩の巨人だそうだ。
人型岩肌も船体も灰色だから、ぱっと見、ネイビー使用な船に見えないでもないが、色が一緒ということは――、
「じゃあ、船体部分も岩か?」
「はい」
「どうして浮いてるの?」
「魔王軍、脅威の魔導技術力だからです!」
なんて素敵なご都合技術。
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