PHASE-1433【線を点に出来れば】

「では、もう一打!」

 一歩前進からの左ストレート。

 一足の歩幅が広いことで……。


「にゃろ!」

 回避する余裕はないので、木刀二振りで対応。

 マスリリースを纏わせて、零距離でオーラからなる拳を叩いて受け止める。


「わぁっ!」

 左肩から上がるミルモンの声。

 マスリリースとオーラの拳がぶつかった衝撃で吹き飛びそうになっていたようだけども、懸命に堪えていた。

 ワックさんが新たに取り付けてくれた取っ手の賜物ってやつだな。


「巨腕、巨拳を躱し――防ぐ。大したものだが――」


「ア、アクセル!」

 声音から感じる悪寒。

 ガルム氏の次の攻撃は危険と直感で判断し、即座に高速移動で豺覇の間合いから離れる。

 見舞ってきたのは三発目――ではなく、オーラの拳によるラッシュ。

 大きくて速い連打を受け止めきることは現状の装備と能力では不可能。回避で大正解。

 

 ――巨大ながらに機敏な動き。

 ガルム氏が拳を連打すれば、それと同様の速度で巨腕も動く。


「まともに豺覇の白打距離で打ち合うなんて考えるもんじゃねえな」

 距離を取りつつ対策を考えないといけないんだけども……、


「考える猶予は与えん!」

 言えば、接近はしてこず、拳打の構えから掌へと変更。


「ハッ!」

 短くも凄烈な気迫による掌底。


「……なるほど」

 連動してオーラの掌底から青色の気弾が俺へと放たれる。

 バフのかかったコクリコのファイヤーボールを彷彿とさせる、バランスボールサイズの気弾。

 イグニースで防げればどれほどいいか。と、思いつつ、横っ飛びによる恰好の悪い姿で回避。


 無論、ガルム氏がそれを見逃すことはなく、次の気弾を放つ。

 気弾の動きは速いけども、対処できない速度ではないから回避は難しくなかった。

 だからこそ、それ以外にも目を向けることが出来た。

 

 ガルム氏の纏うオーラアーマーである豺覇のサイズが、心なしか小さくなったような気がした。

 というか、間違いなく小さくなっている。

 そらそうだよな。纏っているオーラを気弾として放っているんだから、消費でオーラアーマーが縮むのは当然。

 遠距離攻撃が可能でも、気弾を放てばオーラ量は減るから、纏うオーラの厚みはなくなっていく。


 ――光明が差してきたな。


「フンッ!」

 と、発せば、オーラの厚みが元通り。

 でも、悲観はしない。

 同様の事を行わせ、纏うオーラを消費させ、そこを突くことで勝利を狙える。

 

 問題はその為の一撃。

 マスリリースでは正直、難しい。

 斬撃は強力だけど、分厚いオーラアーマーの中心にいるガルム氏までは届かない。

 届かせるにはオーラを消費させ、厚みを失ったところを狙う。

 が、マスリリースの斬撃が本体へと届くくらいになるまで纏っているオーラを消耗させるのは、現状の力では厳しい。

 無理矢理に剥がすために力を注げば、ガルム氏に攻撃が届く前に俺が疲弊してやられるだろう。

 

 ――効果的な攻撃手段があるとするなら、一点集中が最適解。

 マスリリースを斬撃として放つのではなく、刺突として打つ。

 それが可能なのかは試したことがないけども、不可能ではない。


 ガルム氏のオーラアーマーである一対のピリア、ファースンとアンリッシュ。

 これを利用しての天破槍嵐と地壊雨槍という技は、前者が長棒を振り回しての斬撃を飛ばすという技で、後者が刺突による野球ボールサイズの気弾を放つという技。

 形状の違う攻撃方法だが、元となっているピリアは一緒。

 となれば、マスリリースでも同様の事が出来るかもしれない。

 出来ないとなれば、作ればいいだけなのがこの世界のマナ。

 想像によって生み出すってのがこの世界でのマナの使用方法でもある。イグニースから派生させた烈火、幻焔という実例もある。

 マスリリースを刺突として放つことをひたすらにイメージすれば、新たな技も生み出せる――はずだ。


「猶予は与えんと言ったぞ!」

 アクセルからオーラの巨腕による拳打。


「いえ、オーラに厚みを戻す時、十分な時間をいただきました」

 返答し、駆け出す。


「「「「おおっ!!!!」」」」

 久しぶりにギャラリーから声が上がる。

 驚きが混ざった歓声は、俺の芸当に向けられたものだった。

 迫る拳に駆け出し、ドロップキックで対抗。インパクトと同時に両足の膝を曲げ、直後に膝を伸ばしての跳躍は、拳打の威力を利用してのもの。

 そのまま空中へと離脱。

 正直、跳躍による離脱は悪手。

 ガルム氏と違ってアンリッシュが使えないから、二段ジャンプ的な移動方法は出来ない。

 ここが樹上移動が可能な森なら問題ないけど、遮蔽物もないところに対空の気弾を連射されれば防ぐのは難しい。

 だが、これも相手を誘うため。

 

 空中で姿勢を安定させ、牽制のマスリリースを放つ。

 これで迎撃の気弾を放ってくれればと期待するが、ガルム氏は俺に対して気弾を放つことなく俺を追って跳躍。

 狙い通りにはいかねえな……。


「捉えたぞ!」


「ぐぅ!?」

 跳躍から突き上げの拳打。

 木刀二振りを×の字にして防ぐも、トロールやオーガを超える巨大な拳を叩き込まれれば、体中が衝撃に襲われる……。

 

 ピリアによる質量を持った拳打……。

 火龍装備ありきでも衝撃は強烈……。

 一撃食らっただけで、ミシミシと骨が軋む音が体内から響いてきた。


「まだまだ!」

 空中で姿勢制御が難しいというのに、相手はお構いなし。

 足部分のファースンをアンリッシュへと変え、上方に吹き飛ばされる俺を更に追撃してくる。


「まったく……痛みに悲鳴を上げる暇もねえよ……」

 二段ジャンプでガルム氏が接近。

 両腕を広げれば、肥大化したオーラアーマーである豺覇も連動。

 拳を掌にし、合わせようとする動作。


「蚊じゃないんだからさ! ブーステッド!」

 迫ってくる両手を木刀にて全力で叩き返す。


「なに!?」


「合掌なんてさせてやりませんよ!」

 オーラからなるデカい掌を細い二本の棒で弾き返せば、オーラの中心にいるガルム氏は驚きの表情。


 ついでに――、


「足場!」

 接近してきたガルム氏のオーラに蹴りを入れ、そのまま地面へと体を向かわせる。

 

 ――高所からの着地に、


「いぎぃぃ……」

 情けないうめき声が出てしまう……。

 やはりベルやガルム氏のようなスマートな着地ってのは、まだまだ無理な芸当のようだ……。

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